LIVE ENERGY

現代建築考文 : 藤森 照信

現代建築考 1 大学セミナー・ハウス

入り口とブリッジ

現代建築考 1LIVE ENERGY vol.71掲載

大学セミナー・ハウス

東京大学教授 藤森照信

東京で大学生活を送ったことのある人なら、今回の建物を懐かしく思い出せるかもしれない。東京の私立と国公立の大学が共同して設立した泊りがけのセミナーハウスで、創設されてもう37年になるから、調べたわけではないが数十万人の若者がここを通過したことになる。現在、たいていの大学が独自に持つ合宿型セミナーハウスの原型なのである。
東京オリンピックの翌年の1965年に完成した時、多くの建築家に強い印象を残し、37年後の今も見る人の目の奥を揺さぶる力はこの建物のどこから湧いてくるのか、それを考えてみたくて秋の一日、出かけた。
広い丘陵にアップダウンしながら散在する本館、宿泊、セミナー、集会などなどの諸施設を一巡して、私の目玉は二つの力に揺さぶられた。一つは、宿泊棟の配置で、いくつもの小さな棟が、独立しながらしかも手をつなぐように連続して一つの場を画している。子供のカゴメカゴメのようにとも、アフリカ原地人の集落のようにとも見える。吉阪が自ら言った“不連続統一体”である。もう一つは、中心施設となる本館(事務、食堂が入る)の建物で、ちょっと例のない形をしている。ピラミッドをひっくり返したようなというか建築には異例な逆三角型なのである。
この二つの特徴のうち、今回は逆三角型問題について、本館の前のガードレールに腰かけて、しばし眺めながら考えた。

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地から生えたというより、大地に突きささったような本館

地面から上へ軒から下へ、凹凸の激しい打ち放しコンクリートに視線をこすられながら、視線を壁面にそって下ろしてくると、地面にいたったところでいつもとちがう。いつもなら地面にあたって終るはずの視線が、そのままの勢いで地面のなかまで入り込んでゆくではないか。
どうして止まらなかったのか。ここからが考えどこなのだが、もちろん第一の理由は逆ピラミッド形にあって、下のとがった巨大なカタマリを逆さに置けば地面にめり込んで当然、と脳はこれまでの長い体験から判断し、その判断に押されて視覚の印象は土の中まで入ってしまう。しかし、それだけじゃない。もし地面のところが一段あって基礎状になっていたり、地面から少し上までを帯状にして基礎をしのばせる作りにしていたらどうか。そこで止まるにちがいない。

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本館の談話室。壁がふつうと逆に傾く

設計者は、逆ピラミッドの視覚的めり込み効果をそこなわないよう、建物と地面の接点を注意深くデザインしているのである。
丘陵の地形を巧みに生かした諸施設の全体配置といい、微地形まで傷つけないように木造で軽量化した(床面と支柱はコンクリート)宿泊棟といい、本館の逆ピラミッド視覚効果といい、吉阪はこの建物の設計にあたり、いちじるしく、“グランド コンシャス”大地に対し意識的なのである。

日本の建築家で吉阪こそ、大地というものを意識し、自覚して設計した最初の人だった。正確にいうと、アントニン・レーモンドが先行し、レーモンドは“近代の大地”と説明して打ち放しコンクリートを使っているが、その視覚的な純度の高さからいうと吉阪に軍配が上がる。では吉阪は建築家としていつ大地を意識したか。戦前、早稲田の建築の学生時代、モンゴルの草原で「一軒の小さな泥作りの家」に出喰わし「その後いつまでも私の心をとらえた」、その体験からだが、もっと直接には、コルビュジェのところに入った時だろう。当時、コルは、マルセイユのユニテを工事中で、そのピロティが逆三角形をしていた。コルのピロティの壁柱がそれまでの垂直から逆三角形になるのはマルセイユのユニテが最初だから、吉阪は、コルの逆三角形第一号からダイレクトに学び、学生時代からの「一軒の小さな泥作りの家」との接点がコルの造形にはあることを確認したのである。

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