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甦る建築文 : 矢野 和之

甦る建築 20 洲本市新都心ゾーン(兵庫県洲本市)

文化ゾーン、みけつくにゾーン全景

甦る建築 20LIVE ENERGY vol.82掲載

洲本市新都心ゾーン(兵庫県洲本市)

株式会社 文化財保存計画協会 矢野和之

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図書館入口広場は煉瓦尽くしの空間となっている

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煉瓦塀に囲まれた中庭で本を読むことができる

歴史的建造物群、それも工場などの日本の近代化を担った建造物や土木遺産は、巨大な規模と、当時の最新鋭の技術と、そして洗練された意匠を併せ持ったものが多く存在します。その歴史的建造物群は、歴史上、社会上、技術上、芸術上の時代を物語る生き証人でもあります。特筆すべきは、明治、大正、昭和初期では、工場建築であっても機能を追求するだけでなく、決して意匠を疎かにしておらず、芸術的にも優れています。当時は欧米にいろいろな分野で追いつくことが求められていました。ものづくりに関しても、建築の世界でもモチベーションが非常に高かったのです。もともとのクオリティの高さが、歴史的建造物を保全再生した作品が大きく成功している大きな理由のひとつと考えられるのです。倉敷のアイビースクエア、横浜の赤煉瓦倉庫、金沢の市民芸術村などその代表例でしょう。

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図書館内部は煉瓦壁が落ち着いた雰囲気をつくっている

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煉瓦壁の構造補強は意匠的にもすっきり納まっている

洲本新都心ゾーンは、カネボウ(旧鐘ヶ淵紡績)の工場跡地を中心とする再開発事業で、16ヘクタールに及ぶ面積が対象で、平成6年に計画されました。ここは市の中心部に近いので、市の主要な機能を集中させようという計画でした。再開発にあたって大型商業施設の誘致と既存の煉瓦造の工場や倉庫の活用を計画の目玉としたものでした。この再開発計画では、公共施設誘致ゾーン、ショッピングゾーン、文化ゾーン、みけつくに(御食国)ゾーン、公共・業務ゾーンなどにその機能をゾーニングしています。洲本という地方都市で、これだけの面積の再開発をまとめ上げるのは大変だったでしょうし、その中で、歴史的建造物の活用を計画に加えるのはさらに力のいる仕事であったと思われます。
古代には淡路島は淡路国という一国をなし、江戸時代には阿波蜂須賀藩に属していました。洲本は淡路島の中心地で、蜂須賀藩には徳島城の他、洲本にも城が認められていました。家老の稲田氏が洲本城代を勤めていましたが、家老といっても蜂須賀家の客分扱いで、一万四千五百石の大名並みの知行を有しており、独立の気概をもつ地域であったといえます。明治3年、蜂須賀家臣が稲田家臣を襲うという稲田騒動が起きます。明治政府により稲田家は北海道に移住開拓を命じられました。このことは、船山馨の小説『お登勢』や映画『北の零年』などに描かれています。

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淡路ごちそう館「御食国(みけつくに)」はエネルギープラントを利用したレストラン

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広場からみた塵突とアルチザンスクエア(レストラン他)

その後明治41年、洲本に鐘ヶ淵紡績が進出し、大工場が建設され、地域の発展に大きく寄与しました。洲本のシンボルは洲本城から煉瓦造の壮大な工場群に変わったといえるでしょう。昭和61年カネボウの繊維部門が操業を停止した後、永らく埋もれた存在となってしまっていましたが、再開発によって再び洲本のシンボルとして歴史的建造物の再登場になったのです。
現在、歴史的建造物を活用している文化ゾーン・みけつくにゾーンは車を排除し、中心部には市民広場が設けられており、その北側には塵突という繊維の塵を排出していた施設が繊維工場の記憶を語るものとして残されています。文化ゾーンには市立図書館と博物館(現在閉鎖中)があります。図書館は、主に工場の煉瓦塀や煉瓦壁を活用して設計されています。もとの形態がどうであったか分からないほどに変わっていますが、百年ほどの年月を経た時間の重みを感じられる壁を存分に利用して空間が構成されています。
平成7年に旧原綿倉庫を利用した民営のアメリカンカルチャーミュージアムは、現在休館中です。結婚式場やレストランとしても活用されていましたが、採算が取れなかったようです。旧エネルギープラントを利用した淡路ごちそう館「御食国」は、14.5メートルの高さの吹き抜けをもち、産業遺産特有の雄大な内部空間をうまく利用しています。事業主体は、第三セクター「淡路島第一次産業振興公社」です。多くの客で賑わっています。この他、アルチザンスクエアというレストランを含む雑居ビルもあります。
ただ、市営、民営、第三セクターという事業主体がいろいろであること、配置が有機的に繋がらないことなどで、歴史的建造物群の活用というテーマを強く印象づけることに必ずしも成功していないように思われます。ステップアップを目指して次の戦略が求められるでしょう。

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