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甦る建築文 : 矢野 和之

甦る建築 27 エクセル伊勢佐木(旧横浜松坂屋西館)

伊勢佐木町の長い歴史を物語るシンボリックな建造物である

甦る建築 27LIVE ENERGY vol.89掲載

エクセル伊勢佐木(旧横浜松坂屋西館)

株式会社 文化財保存計画協会 矢野和之

横浜の古くからの繁華街である伊勢佐木町は、それまでのアーケードを外して1970年代に「イセザキモール」として整備されました。通りに青空を取り戻し、街路樹の緑を得た歩行者専用道としたことで脚光を浴び、商店街の再生の好例として評価されました。
この伊勢佐木町商店街の中心的存在が横浜松坂屋でした。横浜松坂屋は、明治43年(1910)に元治元年(1864)創業の野沢呉服店の支店として百貨店を開業したという由緒あるデパートでしたが、この松坂屋は昨年閉店しました。横浜の商業の中心がみなとみらい21や再開発された横浜駅周辺に移り、客足が遠のいていったことが原因でしょうか。

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1階エントランスとロビー

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1階ロビーと指定席券売り場

このイセザキモールには横浜市の「横浜歴史建造物」の認定を受けている二つのデパート建築があります。 一つは、横浜松坂屋の本館で、大正10年(1921)に創建された鉄筋コンクリート造です。大正12年の関東大震災によって、大型の建造物は煉瓦などの組石造から耐震性の高い鉄筋コンクリート造へと変わっていきましたが、震災前のコンクリート造として貴重な遺構です。昭和4年、9年、12年に増改築されており、地上7階・地下1階となっています。現在のような装飾性の高い外観意匠となったのは昭和4年で、中京圏を中心に活躍した建築家・鈴木禎次の設計とされています。アールデコ調のテラコッタが、商業建築としての華やかさを演出しています。
もう一つは旧横浜松坂屋西館で、昭和6年(1931)に竣工した地上7階地下1階の鉄筋コンクリート造です。本館に比べ、クラシックな意匠を持つものです。大手建設会社の設計・施工ですが、設計のレベルは極めて高いと言えるでしょう。この時代は、逓信省などの官公庁営繕部、地方自治体の営繕部、そして大手建設会社などに優秀な技師がいて、設計に活躍した時代でもありました。

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シンプルな中にもクラシックな意匠を持つ

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エレベーターホールも当時の建築的質の高さを表わしている

大正から昭和初期に関しては、ヨーロッパの新しい建築思潮を日本でどのように消化し発展するかという、熱気に満ちた時期の真っただ中にあり、アールデコ、インターナショナルスタイルという新たな意匠を取り入れた建築も多くつくられましたが、この西館は、クラシックな意匠を持ちながらも、近代的なコンクリート建築として形と技術が消化されていると言えます。
このように、異なる意匠を持つ建築が、伊勢佐木町に並立していたことになります。それもそのはず、同時代に建てられてはいますが、別館はもともと鶴屋呉服店を前身とする松屋横浜支店で、松坂屋が買い取ったものでした。いずれにしても、二つの建物は伊勢佐木町の歴史を物語る貴重な証人と言えるでしょう。 現在、旧西館は横浜松坂屋の事業縮小に伴って、松坂屋から平成12年にJRA(日本中央競馬会)が借り上げ、「エクセル伊勢佐木」という誰でも入れる非会員制の場外馬券場となっています。1階がホールと喫茶店、2階から7階までは、1500席の指定席と全国の競馬場から送られてくるライブ映像がながれる大型モニターが設置されています。1日中ゆったりと競馬を楽しむというコンセプトをもって改装されており、この建物の持つ昭和初期の特徴やイメージを壊さないよう気遣った内装となっています。

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階段室もそのまま使用されている

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正面入り口

また、この建物が借り上げであるということもあるかと思いますが、本来その建物の持つ歴史的評価の根幹にかかわる部分をきちんと残すことに加え、修復や改築工事における可逆性、つまり「改築前にもどすことができる」という基本理念が実行されている点が評価できます。耐震補強は開口部の内側で処理をして、外観には影響を与えないようにしています。
歴史的建造物と競馬の場外馬券売り場。一見ミスマッチのように見えますが、どちらも長い時間を経た伝統的なものであり、実は非常に馴染みがよかったことがわかります。

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