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甦る建築文 : 矢野 和之

甦る建築 28 庵・三坊西洞院町町家(京都市)

主屋を抜けて飛石の向こうに玄関

甦る建築 28LIVE ENERGY vol.90掲載

庵・三坊西洞院町町家(京都市)

株式会社 文化財保存計画協会 矢野和之

京都は、千年の都であり、同時に町衆のまちでもありました。今でも至る所に町家が連続して残り、京都の歴史的景観を構成していました。しかし、マンションやビルが建ち始め、大きく景観が変わってきています。景観上の危機的状況を少しでも打開すべく、京都市では建築の高さ制限を厳しくしたり、屋上看板の制限など新たな景観条例を施行しています。

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祠がある小庭

京都の魅力は、神社や寺院に残る文化遺産だけではなく、京都のまちにある生活文化にあるといえます。祇園祭では、各会所に納められている鉾山を組み上げ、通りの両側で構成される町会単位で参加します。また京料理やお菓子などが生活の中に継承されており、それらの総体が魅力を形成しているのです
。 京の町家は、京の生活文化の中に育まれたもので、日本の庶民の都市住宅の中でも高度に洗練されたものの一つでしょうが、年々数を減らしています。また、京都を訪れる観光客は町家の佇まいを外から見ることはあっても、中に入って触れることはないようです。滞在型の観光が唱えられて久しいにもかかわらず、また外国人観光客の受け入れ態勢の整備が叫ばれているにもかかわらず、京文化を愉しむ新たな仕組みづくりはあまり多くはありませんでした。京都の文化に直接触れることのできる仕組みをつくることが望まれていたのです。

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旧アトリエは小屋組をあらわにした居間となっている

そこで考えられたのが、京町家にステイできるような宿泊モデルです。町家一棟を丸ごと貸し出すという、一種のコンドミニアムのように使えるシステムです。古い使用していない京町家をリノベーションして提供しています。もちろん、観光客の宿泊という新たな機能に応じて、修理とともに耐震補強等を施し、トイレ・風呂などの水回りやインターネットアクセスなどを整備してあります。
加えて、ただ修復でオリジナルな空間を甦らせるだけでなく、伝統的空間をベースとして新たな価値を創造する試みをしています。同時に、日本の伝統文化に触れるためのアートプログラムが準備されています。半日から3日の自由なプログラムが用意されています。

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主室は根太天井そのままに床の間を新たに設える

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主室から小さな庭を望む

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茶会もできる空間

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玄関と階段

現在、明治時代から昭和初期の時代の洛中町家10棟が用意されています。これらの所有者はそのままに、「庵」という会社がプロデュースして運営を担当し、観光客に貸し出しています。かつての商人宿、商店、問屋などでしたので、それぞれ特徴があります。その特徴を生かして改装してあり、2名から14名の宿泊ができるようになっています。その中の一つ「三坊西洞院町町家」は、明治5年の建築です。所有者の家業は現在は呉服屋ですが、幕末の創業時には刺繍業で、もともと刺繍の工房として使用されていたものです。その後、芥川龍之介など文壇や政界と交流のあった小林雨郊(現所有者の祖父)が絵のアトリエに改装して、石匣尻と名付けました。客の絶えないサロンでもあったそうです。
一階にはにじり口がついた茶室があり、二階のアトリエだった屋根裏部屋には大きな窓があるのが特徴であったため、その特徴を生かして改装されています。広い檜風呂からは、ガラス戸越しに坪庭を眺めることができます。町家に住む心地よさを体感できるようになっています。
周囲はマンションなどの高いビルに囲まれ、ある意味では現在の京都を象徴していますが、もともと高密度の都市住宅としての構成となっているため、町家の中にいる限りはあまり圧迫感を感じません。この町家のレンタルは、歴史的建造物の保存と活用に係る一石二鳥のアイデアといえます。日本文化をこよなく愛しているアメリカ人の東洋文化研究者による発想でした。京都だけでなくある離島でも試みられようとしています。これからの観光施設の一つの方向を示していると思います。

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