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空間談義

空間談義 46 建築の完結性とアクティビティ

砥用町林業総合センター(註1)遠景。
丘の上に建つ姿が「神殿」のように見える(撮影:上田宏 以下全て)

空間談義 46LIVE ENERGY vol.84掲載

建築の完結性とアクティビティ

西沢大良建築設計事務所 西沢大良 vs SANAA・妹島和世建築設計事務所 妹島和世

周りに気を使う「神殿」

西沢熊本県の砥用町林業総合センター(註1)は、おととしJIA新人賞の審査で妹島さんに見ていただきました。いかがでしたか?

妹島その時の審査講評にも書かせていただきましたが、下の国道からアプローチしてきて目をやると、丘の上にポーンと建っている。その建ち方がまず、すごくいいなーと思いました。敷地が実際の敷地だけじゃなくて、背後に見える山まで含めて、あの環境全部が、あたかも林業総合センターのためのもののように見えて、「神殿」のような感じで建っている。
また、その場所に対して、皆が、こういう場所だったんだということがわかるような建て方をしていて、周りの環境から生まれたプロポーション、形がある。しかしもう一方では、ものすごく独立的でもある。そういう周辺環境との触れ方をしていると思います。それはすごく西沢さんらしいと思ったし、成功していると思いました。皆の集会所みたいに使える施設だから、プログラム的にも、本当に合っているなと。

西沢ありがとうございます。

妹島それからディテールをよく見てみると、これまでの西沢さんの住宅でも繰り返し出て来たように、どうやって風を入れるかといったことが、ものすごくローテクに、ルーバーとかガラスの重ね合わせといった手法を使って実現されているのがわかります。
だからものすごく抽象的なボリュウムみたいにも見えるし、見方を変えると、ものすごく具体的な物の積み重ねみたいにも見えるので、そういうつくり方も面白いなと思いました。

西沢先ほど「神殿」とおっしゃいましたが、それはアクロポリスのことですか? それとも日本の神殿?

妹島アクロポリスのイメージだけれども、それは建築のタイプ分けとして言ったことで、西沢さんの場合、他の作品でもそういう感じを受ける時がありますよ。ただそれがいちばんわかりやすく出てきているのが、林業総合センターだと思います。アクロポリスの神殿みたいに、ちょうど丘の上だしね。

西沢他の作品も「神殿」か。なるほど。

妹島林業総合センターを拝見するまでは、西沢さんの作品をそうは思っていなかったんですが、要するに建ち方としてはものすごく独立的に建つし、同時に周りを美しく見せるということにもすごくよく配慮していると思うんですけど。

西沢それはそう。両方やっていますね。言ってみれば、「周りに気を遣った神殿」をやってます(笑)。

妹島そうそう。

西沢つまり、「神殿」のような“超越性”と、周辺への配慮のような“世俗性”を、同時にやりたいわけなんですね。ただ、周りを気遣うことは、妹島さんもよくやられていますけど、「神殿」にはされないですね。

妹島私も独立的にも建ちたいと思っていますが、「神殿」にならないのは、プロポーションが違うんですかね。そういう意味では西沢さんの作品のほうが、より極端なプロポーションなのかな。例えば「大田のハウス」とか。

西沢ああ、あれは細いですしね。

妹島でも西沢さんは、実はそうじゃない空間もつくれるでしょ。やろうと思えば、曲線を使った、もっと緩やかな伸びやかな空間などもつくれるのではないですか。

西沢出来ますね。というか、実は結構うまいです(笑)。

妹島だけど敢えてつくらない。その辺はどう考えているのかなと思っていたんですよね。

西沢それは僕の最初の住宅「立川のハウス」に遡るんですけど、僕がその前の所員時代に設計していた住宅はもっと大きくて、延べ60坪くらいでした。でも「立川のハウス」は延べ27坪で、すごく小さかったんです。設計をはじめた日に驚いたのを憶えてます。遊ぶ余地が全然ない。でも、今にして思えば、自分としてはそれが勉強になった。もしあのとき、所員時代と同じ大きさの仕事をしていたら、僕はもっと適当な建築家になっていたと思います。

妹島習ったことで取りあえずやれてしまうというところがあるからですか。

西沢その方が楽ですしね。でもそうは出来なかったことが、その後の仕事につながりました。

建築の完結性

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北側外観。下部2mがスギの板。上部が強化ガラス。
ガラス1枚1枚が1m角で、下見張りのように重ねられている

img02

エントランス側から北方向を見る。
外への視線は四方とも山や森林だけが見えるようになっている。

妹島林業総合センターの外壁の下部分は木でしたよね。私はあれ、好きですよ。2mの高さのところで、壁がガラスへと木材からスパッと変わっていますよね。

西沢ええ。屋内から見たときに、周囲の山だけ見えるようにしたかったんです。だから、どちらかというと屋内から決まっていて、外観は結果だったという面もあります。

妹島ちょうど建具もピッタリそれと同じ高さになっているし、それだからプロポーションもいい気がしますけどね。下からガラスだけでいっちゃうと、ちょっとどうかなって思ったのだろうけど、一回途中で切ったから、ますます上だけがスポンと見えている。そこにちょっと太い木で、ガンガンと構造をやるところなんかが面白い。

西沢構造材は地元の杉材だから太くなるんですが、印象をフワッとさせたかったんですよね。重力が消えた感じになると面白いと思って。

妹島それはやっぱり木というものの重量が軽いからだと思うんですよね。人によっては、スチールとかでやると思うんだけど、そうするとギスギスしてきたりする。

西沢そうですね。そうなると構成だけになっちゃうな。

妹島西沢さんは、材料もそういうのを使いますよね。でも住宅だと結構過剰になるじゃないですか。

西沢まあ、小さいから密度があがりますね。

妹島小さいやつはね。それにそういう部屋を絶対白くは塗ってくれないですよね。

西沢白く塗ってほしいわけですか。人のものまで(笑)。僕も白でいいかなと思うときもあるんですけど、白くすると、やっぱり篠原一男に勝てないと思ってしまう。白は僕にとっては篠原さんの色なので、なるべく白に頼らないでやりたいんです。

妹島例えば西沢さんの弟の立衛さんが最近つくられた「HOUSE A」なんかどう思っていらっしゃるのですか。

西沢まだ実物を見ていないので不正確かもしれないですが、立衛くんの処女作の「ウィークエンドハウス」から考えると、ずいぶん良くなったと思ってますけどね。
プランを見ると、個々のスペースの大きさは4畳半とか6畳とかの適度な大きさで、それらが連続しながらそこら中に抜けがあるような、あちこち向いているようなスペースをつくっている。生活というのは、あちこち向くことでもあるので、よく出来てると思うんですよ。だけど「ウィークエンドハウス」は正方形とグリッドで、すごく完結的だったというか、自分の手法でつくり込み過ぎてると思ってました。

妹島西沢さんも完結的じゃないですか。

西沢そうなのです(笑)。僕は放っておくと、とてつもなく完結的になりますよ。だから設計中、その完結っぷりをどうほぐすかに、すごくエネルギ-を使います。
その意味で、さっき妹島さんがおっしゃった敷地の条件とか、通風や雨仕舞とか、具体的な素材の処理とかが、ぼくにとっては重要になるんです。そういうものは、自分の思い通りにならないものでしょう。完結しがたいものでしょう。それをどこまで作品に取り込めるかで、建築のレベルが決まると思うんですよね。

妹島どれをピックアップするか、どう読むかということが、すごく自分に掛かってくる。

西沢そうです。もちろん作品をつくっているわけだから、完結性をゼロには出来ないし、する必要もないですが、かと言って安易なところで完結させてもダメでしょう。それで敷地の情報なり、風なり雨なりといった世俗的な問題が、非常に大事になるのです。だから林業総合センターも、周りと一緒に見て初めて意味を持つようにしたかったんですね。あるいは雨仕舞を見たときに、より力強く見えるようにしたかった。

空間と人のアクティビティ

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天井を見る。
熊本県産のスギ材で不定形な架構が組まれている。
天井と外壁の軽量鉄骨との組み合わせで、22mスパンの無柱空間を実現している)

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東側夜景。
夜、屋内でミニバレーが行なわれていると、人は見えずに、バレーボールだけが跳ねているかのように見える。

西沢少し妹島さんの仕事についても話しましょう。金沢21世紀美術館は延床面積が2万平米近くありますよね。ぼくは実際に見て、ちょっとでかすぎる気がしたんです。

妹島私はむしろ、初めはもっと大きくしたいと思っていたんですよ。両側の広場が切られちゃうくらい。そして中にもっといっぱい箱がつまっているというイメージでした。

西沢そうですか。僕は、あのプランのアイデアには、適正規模があると思った。床面積が半分だったら名作だと思った。あるいは、逆に、全体がわからないくらいに異常にデカくするというのもあったかもしれませんが、いずれにしても、アイデアと規模のバランスが気になりました。それと、もう一つ思ったのは、屋内の仕上げです。展示室の中と、展示室の外の通り状のスペースは、仕上げのクオリティに差があった方が面白くなると思いました。

妹島そうですかね。なるほど。

西沢市立美術館である以上、展示室の中はクオリティを上げざるを得ないわけですよね。

妹島展示しているところですからね。

西沢だけど外は違うんじゃないかな。ぼくはもっと半屋外的な感じでもよかった気がした。あの通り状のスペースは、プランからすると空前絶後のスペースになるはずなので、それで仕上げが違うのかなとちょっと思いました。実際問題としても、外と中で差があれば、展示室から出たり入ったりすることが、もうちょっと楽しくなるんじゃないかな。

妹島そうですね。もしくは全部がアートで埋まってしまうというのもあると思いますが。

西沢そうですね。それもありますね。いずれにしても、あの通り状のスペースが変化したとすると、人の動きも違ってくると思うんです。例えば中庭があるあたりは、僕はすごくいいと思った。なんとなくいつも人が群れていて、普通の美術館の廊下では起きないことが起きかかっている。人の現われ方も含めて作品だと考えると、これは大事なことだと思います。
さっきの言い方をすると、人間の動きや現われ方というものも、設計者の思い通りにならないものですね。完結性を破るものです。それを排除して馴染みの作品を目指すか、あるいはそれを吸収して高次の作品をめざすか。

妹島自分で決め切れないものがいろいろ入ってきたら、どうするか。外から入ってくるものを入れながら、よりいい完結性みたいなものが出来るようにするためには、どうデザインするかってことになるのかもしれないけれど、そこは難しいですね。

西沢難しいけれど、やりがいはありますね。それは建築じゃなければ出来ないことだから。林業総合センターも、夜が面白いんですよ。夕方になるとおばさんたちがママさんバレーをやるんだけど、外から見ると、おばさんたちの姿は壁に隠れて見えないんです。

妹島そうですね、ちょうどね。

西沢バレーボールの玉って白くて大きいでしょう。その動きだけが架構の下をポンポン跳ねてるように見えて、かわいいんですよ。バレーボールって、こんなにかわいかったのかという感じ。

妹島なるほど。情景が目に浮かびます。

西沢こちらの思うがままにならないものを、どこまで自分の作品のように取り込めるか。それは建築のボーダーを拡張するようなことだと思うんです。ぼくが興味を持つのはそういうことですね。
普通に見えて普通ではないプラン。

西沢妹島さんは金沢以降、どんなことを考えていますか。

妹島うーん。見慣れた幾何学のようなプランをつくるのは避けたいな、なんてことを、最近はいちばん考えているのかな。西沢さんは、沖縄の「Kokueikan Project」のコンペ案でもそうだったけど、平面プランでは絶対に変なことをやらないですよね。

西沢やらないですね。

妹島人を入れながらそれでもコントロールするというのは、あのプラザの取り方というのに、はっきり出ていると思うんです。
あとはそこに入れる店舗を、例えばガラス張りみたいにしてしまうと、そこに壁の代わりに板を立てられたり、いろいろなことが起こってくる。そういうところは、もう初めから壁にしておけば、何が起こってもいいというように考えられる。

西沢そうですね。

妹島どんなイベントが起こってもいいけど、そのイベントの起こり方みたいなところだけは、プランでしっかりコントロールするんだというような印象を受けました。

西沢プランについては、僕は割と表現しないように、しないようにって気をつけてますけどね。篠原さんがプラン派だったので、僕はなるべく普通のプランにしたい。

妹島普通に見えるように、すごく厳密にやっている。でも普通はなかなか普通には出来ないですよね。

西沢それはそうですね。厳密にはなっちゃってます。その意味では普通じゃないな。

妹島そういう意味で、「Kokueikan Project」のプランには、ものすごく意志というものを感じますね。

西沢ありがとうございます。ぜひ完成したら見ていただいて、感想をいただければと思います。今日は楽しい話をありがとうございました。

(註1)市町村合併により、昨年から「美里町林業総合センター」という名称に変更。

西沢大良Nishizawa Taira

西沢大良

1964年東京に生まれる
1987年東京工業大学卒業
1987年入江経一建築設計事務所入所
1993年西沢大良建築設計事務所設立
現在
東京芸術大学、東京理科大学、早稲田芸術学校ほか非常勤講師

<主な作品>
1996年 立川のハウス
1998年 大田のハウス
1999年 諏訪のハウス
2000年 ショップ・エンデノイ
2001~03年 調布の集合住宅A、調布の集合住宅B
2002~04年 砥用町林業総合センター
2006年 板橋のハウス

<主な受賞>
1997年、99年 東京建築士会住宅建築賞 '97受賞 同'99受賞
2001年 東京建築士会住宅建築賞'01金賞
2005年 AR-awards 最優秀賞(英国AR誌)
2006年 JIA新人賞
KOKUEIKAN公開設計競技最優秀賞

妹島和世Sejima Kazuyo

妹島和世

1981年 日本女子大学大学院修了
1987年 妹島和世建築設計事務所設立
1995年 西沢立衛とSANAA設立
現在
慶応義塾大学教授、プリンストン大学客員教授

<近作と受賞>
2003年 ISSEY MIYAKE BY NAOKI TAKIZAWA*
2003年 ディオール表参道*
2003年 梅林の家(2006年日本建築大賞)
2004年 金沢21世紀美術館*(2006年日本建築学会賞、第46回毎日芸術賞建築部門)
2005年 鬼石多目的ホール(2006年芸術選奨文部科学大臣賞美術部門)
2006年 トレド美術館ガラスパビリオン(オハイオ、アメリカ)*
ツォルフェラインスクール(エッセン、ドイツ)*
有元歯科医院 ノバルティス製薬オフィスビル(バーゼル、スイス)*
直島町海の駅(香川県)*

*印は妹島和世と西沢立衛との共同設計

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