LIVE ENERGY

空間談義

空間談義 50 ふじようちえんの設計と子どもの教育

ふじようちえん園舎全景。建物の隅々まで目が届くように設計された。
屋根の上が遊び場となっている(写真:木田勝久)

空間談義 50LIVE ENERGY vol.88掲載

ふじようちえんの設計と子どもの教育

手塚建築研究所 手塚貴晴 + 手塚由比 vs 学校法人 地球(みんな)のひろば 藤幼稚園 園長 加藤積一

建物全部で遊べる幼稚園

手塚由ふじようちえんの設計は、クリエイティブディレクションを務められた佐藤可士和さんに「幼稚園を設計しないか」というお電話をいただいて始まった仕事でした。
可士和さんにお会いしたら、すでに園長先生に私たちがつくった「屋根の家」をプレゼンされた後で、園長先生がすごく気に入ってくれたというお話でした。それで「建物で遊べる幼稚園ができるといいよね」という話もして、園舎のイメージをつくり始めました。

加藤今回は園舎がかなり老朽化していたので、建て替えをしようと考えたのが発端です。私も知り合いに設計を頼んでみたりしたのですが、どうしても四角い箱の積み重ねにしかならなかったんですね。正直、仕方ないなと思っていたのですが、ある縁で佐藤可士和さんと知り合いになれて、2時間くらい園舎の建て替えのことを話してみたら、すごくよかった。こういう人なら全部お任せできると思いました。でも考えてみたら、可士和さんは一本も線を引けないんですよ。それである時、可士和さんに、これから先はどうするんですかと聞いたら、手塚先生の「屋根の家」は面白いと写真を見せられて、この建築家に設計を依頼しないかと。私もこういう建物もあるのか、すごいなと、興味を持ちました。そうしたらしばらくしてお二人が来てくれたんですよね。

手塚由初めてこの敷地を訪れた時に思ったのは、雰囲気がものすごくよかったということです。大きな木があって園庭が広くて、風が流れていて土があって、そこで子どもたちが伸び伸びと走り回っている。建物を建て替えても、この雰囲気が変わらないようにすることがすごく大事だなと思いました。

加藤可士和さんも最初に来た時、「ここに流れている空気はいいですね」と言ってくれました。私はいつもここにいるから、そういうところに気付いてなかったんですね。

手塚由園長先生は、園舎の外廊下を行ったり来たりしながら、「何々ちゃん元気?」と声を掛けてらして、その雰囲気がとてもよかったです。なので、新しい園舎も園長先生がぐるぐる歩きながら、皆に声を掛けられるようなものができればと考えました。それで、「屋根で遊べる幼稚園」というキーワードの下、子どももぐるぐる走り回るのが好きだなといったことを考えつつ、いろいろとスタディしてできたのが、ドーナツ状の形の園舎でした。 屋根に登れる園舎ですから、手すりはどうしようかというお話もしましたね。園長先生を「屋根の家」にご案内したら、「うちの幼稚園も手すりはほしくない」とおっしゃったんですよ。さすがに私たちは心配で、「手すりは必要じゃないですか」と言ったら、園長先生は「落ちた子どもを受け留められるようなネットを軒先に張るのはどうでしょう」とおっしゃってましたけど、最終的には手すりを付けることにしました。

手塚貴 園長先生は我々の提案に対して、普通の幼稚園や保育園の方だったら、「いや、教育とはそういうものじゃない」といった反応をするところを、逆に私たちより過激なことを話し始めたりしましたよね。

加藤私は建築のルールを知らないですからね。それに本来、人間というのは、どこかから落ちても自分の頭をカバーすることができるものです。ケアという名のもとに、あまり丁寧に保護してしまうと、そういう能力も絶えてしまう。そういう意味で、そうしたほうが子どもにとっていいのではないかと思いましてね。

手塚貴「常識」というのは、実際には真実を示しているのではなく、「慣習」だったりすることもあるんですよね。それを会話を重ねながら全部取り払っていく作業が、このチームの中でうまくいったと思います。

加藤私たちの目的は、子どもを育てることです。慣習や常識にとらわれず、子どもを育てるには何が必要かと、一つ一つ考えていけましたね。

手塚由一個一個、これは何のために必要だったのかと考え直していく作業をやらせてもらえたことが、すごくよかったと思います。

子供の「気づき」をサポート

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保育室には間仕切り壁がなく、家具を間仕切りの代わりに使っている。また、室内と園庭とは、6枚の引き戸を開け放つことで、連続した空間になる(写真:木田勝久)

手塚由この園舎では、例えば雨が降ると、雨樋からザーッと水が落ちてくるのが見えて、雨が降るとこういうふうに水が落ちてくるんだということも子どもたちに教えています。照明は裸電球にして、ところどころにスイッチのヒモをぶら下げましたが、照明はヒモを引っ張ってスイッチを入れるとつくものだということも教えています。そういう当たり前のことを、園舎を使いながら子どもたちに伝えていますね。

手塚貴そこで今、子どもが雨樋から落ちてくる水を触って遊んでいましたけれど、子どもはそういう体験を通して、いろんなことが学べます。
現代の園舎というのは、内廊下を当然としていて、一生懸命気密性を上げて、空調を利かせようとしているから、内と外が離れてしまっている。だけど子どもというのは、本当は自然の中で育てなければいけない。皆そう思っているのに、補助金などの関係もあって、その当たり前のことができていないんですよね。

加藤例えば、保育室の引き戸をどうするか話し合った時にも、多少すき間ができても平気です、といったことを言いました。子どもだから、ちゃんと閉めなかったりいい加減に閉めることが普通に起こって、すき間風が吹くんですよ。でも今の子どもたちは、高気密のマンションで育っているから、すき間風なんてわからない。だったら、ここですきま風をわからせてあげる。寒ければ閉めますでしょ。ピチッと閉めるということをさせたかった。それを通じて、ものごとを最初から最後まできちっとやり遂げる癖がつくように持っていきたい。そういう癖づけこそが将来仕事をするにしても何にしても、基本の血となり肉となっていくと思っているんです。

手塚貴元の園舎と違って、この園舎では上履きを使わないようにしましたね。

手塚由暖房をオンドル式にしたので、冬でも床が冷たくならないから、上履きがなくてもいいのではないかという話もしました。

手塚貴上履きを使わないので、トイレなど、場所によってはスリッパを使うところも出てきて、それを揃えるという行為も教えられる。そういうことが、話し合いの中で生み出していけたと思います。

加藤保育室の裸電球も、最初、子どもたちが、「園長先生、リモコンはどこ?」と言ったんですよ。まさしく今の家庭はそういう環境なんですよ。だからこそこれが有効だと感じました。さっきの子どもも、雨水が雨樋から落ちてくるのを触るのが楽しいんですよ。そういうことをしながら、濡れたら冷たいとか寒いとか感じたり、あまり濡れないようにと自分で腕をまくったりするわけです。自分で気付いてやることが、育ちなんですよ。これを先回りして、「腕をまくりなさい」とか注意するのは、教育と違います。子どもの横でゆっくりと見ていてあげることが大事なんです。その子にとって、自分で気付くことのほうが、ずっと大きな一歩なんです。
この園舎は形ばかりが取り上げられることが多いけれど、そういうところまで手塚先生がとらえてくれていたのは、私たちにとってもすごく嬉しいことでした。そういう教育ができる園舎ができました。

園舎実現のための議論と技術

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園舎の屋上。旧園舎にあったケヤキの大樹が残された。樹木も天窓もみんな遊具になる。屋根をぐるぐる走り回る子どもも多い(写真:木田勝久)

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屋外の水栓は土から生えたような形。蛇口が自由自在に曲がり、子どもたちが興味を持って使う(写真:手塚建築研究所)

手塚貴この建物は、昔の建物ではできなかった開口の開き方をしています。昔はこんなに柱がない状態でこんなに大きな開口をとってしまったら、建物は揺れてしまうし、崩れてしまいます。地震に対して耐えられない。それを構造家の池田昌弘さんとも一緒に、実現できるように検討や計算をしていきました。照明にしてみても、コンピュータで計算してあって、どこでも必要な明るさが採れるようにやっているわけです。
例えば先ほどの上履きを使わないという決断をするために、長い議論をしました。そこに至る道というのは、簡単ではなかったですね。たくさんの議論とやりたいことを支える技術的なバックアップ。それでも足りない時はさらに新しい技術の開発までしました。

手塚由私たちは窓がいっぱい開くというのが大好きで、しかもここではそれが大事なことだと思ったので、園庭に面した内側は全面的に開くようにして、子どもでも開けられるように出来るだけ軽い木の引き戸を開発したんですよね。

手塚貴そのサッシひとつにしても、これだけ大きく開けるようにするには、どれだけの振動の吸収が必要かものすごく綿密に計算し、ものすごく難しいディテールの検討もたくさんしたわけです。この間、インターネットを見ていたら、私たちのことについて書いてあって、「公の建築で、木のサッシなんかつくったら、すぐに動かなくなってしまう。だからあれは駄目だ、無責任だ」と書いている人がいた。でも、動かなくなったのは1枚もないですよね。

加藤ないですね。全然問題ない。

手塚貴当たり前のこと、普通のことをやっているように見えて、実は不具合が生じないようにすごく検討を重ねた上で、最先端の技術が入っています。そうした議論や技術が、子どもを育てるための園舎の実現を支えているわけです。

建築の力

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雨天時には雨樋から雨水が落ちてくる。水が実感できる体験の場(写真:手塚建築研究所)

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照明は裸電球。ヒモで点灯・消灯する。リモコンではわからない電気の仕組みを知り、消灯の習慣が身に付く(写真:手塚建築研究所)

手塚由可士和さんが、一つ屋根の下、一つの村みたいなところだから、できるだけ壁がなくて、パーティションも自由に動かせるようにしようという提案をされて、保育室には組み立てながら仕切れるような箱型の家具をつくりました。その箱が保育室にいっぱいあって、その都度自由にレイアウトを変えながら使っていけるようになっています。
隣の保育室の音も聞こえてしまうから、最初に使い始めた時は、先生たちが戸惑われたりもしていたのですが、園長先生が、隣の部屋の雑音が聞こえるほうが子どもの集中力が育つと言ってくださって、今も壁がないまま使ってくれています。

手塚貴見ていて面白いのは、その部屋の先生のクリエイティビティが出ているんですよね。箱をどう使うかは、それぞれの先生の裁量に任せていますよね。

加藤先生たちの自主性や創意工夫を促しているんです。先生もそういう中で育ってほしいんですよ。
手塚先生に対しては無礼な話ですが、建物というのは子どもたちに貢献するものということで、位置付けとしては道具だと考えています。

手塚貴それでいいと思います。

加藤その中で我々はどうやってそれを使っていくか。より子どもの成長に貢献できるようにするには、どうしたらいいかということを、常に考えています。

手塚貴難しいのは、建物というのは、思ったとおりに使えるものではないということです。時代を超えて何百年と生き残ってきた建築は、元の構想どおりには使われていません。それでも、建物にそれを許容するだけの包容力があるから長く使われてきたのであって、そういう力があるということが大事なところです。
私の先生から頂いた言葉に、「綿密な計画、いい加減な実行」というのがあります。ここでもすごく綿密に厳密に角度、長さ、位置などを考えているんですね。模型も何十個とつくりました。だけど実際は、いつも予測通りにいくわけではない。要は一生懸命考えるのだけれども、いざやるという時にはフレキシブルに考えていかないと、いいものにならないと。私はそういうふうに解釈しているのですが、何かその辺のところが、ここではうまくいっているのではないかと思います。

加藤素晴らしい言葉ですね。計画どおりにならないのが子どもだと思っていますし、それがここの日常です。本当に何が起こるかわからないのだけれど、それをこの園舎は全部許容してくれるんです。先生たちも、状況によっては全然違う形で授業をやってくれているし、屋根の上もひとつの保育室だと思って、いろいろな場所で楽器を弾いたりお遊技をしたりしてくれている。私はそういうことが起こることが嬉しいし、先生たちに楽しんでもらう、気持ちよくいてもらうことが子どもにとっても一番いいことです。
手塚先生は園舎を通して、当たり前のことを我々に提示してくれました。それがまた子どもの成長に貢献できることが理解できるから実にいい。後は皆で力を合わせて、素の自分たちでやっていくだけです。

手塚由引き渡しの時、子どもたちが屋根の上に上がって、ぐるっと取り囲んでくれたのですが、あれには感動しました。

手塚貴そうだね。私も幸せだと思うのは、ここで育った子どもたちが、一生この幼稚園を忘れないだろうということです。ここの子どもたちは、屋根の上をぐるぐる走ったり、木に登ったりしたことを、多分一生覚えている。1学年が200人以上だから10年で2,000人以上の子どもたちがこの建物を経験していくわけです。それは、本当に社会を変える大きな力だと思います。我々がつくったこの小さな建物が、将来2,000人の子どもたちの思想に影響を与えていくと思うと、ものすごいことだなと思いますよ。

加藤本当に起きてくることは、多分そこなんですよ。この建物ができて2・3年ですけれど、この空気なり思い出が、ゆくゆくは大きなエネルギーを発揮するようになっていくのではないかと思っています。

手塚貴建物の本当の力というのは、そこでどういう出来事をつくれるか。どういう人を育てられるか。そういうところが大切なんだと思います。
ふじようちえんと、ここで育った子どもたちのこれからが楽しみです。

手塚貴晴Tezuka Takeharu
手塚由比Tezuka Yui

手塚貴晴 手塚由比

<手塚貴晴氏>
1964年東京都生まれ。
1987年武蔵工業大学卒業。
1990年ペンシルバニア大学大学院修了、リチャード・ロジャース・パートナーシップ・ロンドン入社。
1994年手塚建築研究所を共同設立。
現在、武蔵工業大学准教授も務める。

<手塚由比氏>
1969年神奈川県生まれ。
1992年武蔵工業大学卒業、ロンドン大学バートレット校入学。
1994年手塚建築研究所を共同設立。
現在、東洋大学非常勤講師、東海大学非常勤講師も務める。

<主な作品と受賞>
1996年 副島病院(SDレビュー入選、日本商環境設計家協会JCDデザイン賞優秀賞、通商産業大臣賞グッドデザイン金賞、日本建築学会作品選奨等受賞)
2001年 屋根の家(第18回吉岡賞、JIA新人賞、日本建築学会作品選奨受賞)
2003年 越後松之山「森の学校」キョロロ(エコビルド賞、日本建築学会作品選奨受賞)
2007年 ふじようちえん(経済産業大臣賞 キッズデザイン賞金賞 感性創造デザイン賞、アジアデザイン大賞、日本建築学会賞(作品賞)等受賞)

加藤積一Kato Sekiichi

加藤積一

1957年東京都生まれ。
1980年法政大学社会学部卒業。
商社勤務、ケーキ店経営などを経て、1992年藤幼稚園入社。
2000年に園長就任。
現在、NPO法人全国元気まちづくり機構理事、私立幼稚園経営者懇談会会員も務める。

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