LIVE ENERGY

空間談義

空間談義 53 地域の形を表現する建築の設計手法

リアスホール夜景。大船渡を象徴するリアス式海岸や穴通磯がデザインモチーフとなった
(撮影:小川泰祐(以下全て))

空間談義 53LIVE ENERGY vol.91掲載

地域の形を表現する建築の設計手法

(株)新居千秋都市建築設計 新居千秋 vs 藤本壮介建築設計事務所 藤本壮介

「地域の形」を表現

新居今日は藤本さんに、僕らがつくってきたリアスホール(大船渡市民文化会館・市立図書館)を見ていただきました。いかがでしたか。

藤本いろいろな意味で驚いたのですが、まず敷地の外からアプローチしてきたときに、意外なほど風景の中にマッチしていることに驚きました。雑誌の写真で見ると、やはり建物のインパクトのほうが強くて、どういう状況に置かれているのかということは、あまりわからなかったんです。リアスホールのデザインには、リアス式海岸がイメージの一つにあったということは知っていたのですが、それだけではなく周りの山々の大きさとかリズムに非常に合っているようなことにも気が付いて、この場所にリアスホールがスッと建っている風景がすごく印象的でした。内部では、ふとした瞬間にいろいろなところからいろいろな活動が意外性をもって見えることが一番印象的でした。例えばエントランスに入ったときに、ガラス越しにすぐ図書館が見えるとか、ホワイエを歩いているとき、下にレストランが見えるとか、「体験の立体性」とでも言えるものが非常に丁寧につくり込まれている。写真ではホワイエから見上げる壁面の造形のインパクトが一番強かったのですけれど、実際に歩いてみると、別の空間からまたそことは違う空間が垣間見られるということで、体験が複雑に展開されているというところが、何よりも印象的でした。

新居この建物は、ひとつには風景をつくるということがあったので、設計の過程でどんなに形が変わっていっても、敷地に合わせるということは常に意識していました。また、リアスホールはプロポーザルコンペだったのですが、最初の提案では、こういう形はしていなかったんですね。コンペの後に、町の人たちとワークショップを行なって、その中から改めて建築をつくりあげていったんです。
ワークショップは月1回以上のペースで開催して、その敷地や地域に対する愛情、すなわち「トポフィリア」を皆で育てていきました。その中で「地域の形」をどう表現するかを話し合い、町の人たちが愛着を持っている「穴通磯」とか「リアス式海岸」という大船渡を象徴するようなキーワードが出てきました。そういう自然に対して、建築も同じくらいの感動を与えたいわけですね。「地域の形」を取り入れながら、それをどうやってつくっていくかということが、僕らの最初の課題でした。

藤本そうでしたか。

新居それから僕の作品は、黒部市国際文化センターでも他の作品でもそうですけれど、歩行距離が長くて、大体4~500mは歩くようにできています。それは歩いている時に、若い頃に見た町とか、あるいは洞窟とか、そういう記憶が呼び覚まされるような場所にしたいという想いがありますし、そういうものが必要だと思うんです。少し大それた言い方をすると、近代建築はそういう記憶を排除して、全部一律化していく流れがありました。どうしても過去の建築から離れるために、イズムが必要だったんだと思うんですね。だから窓ガラスは連続で道路に対して真っ直ぐ並べるとか、建物や部屋は四角のほうがいいとか、いろいろなルールを決めてつくられてきました。それに対して僕らは、窓の並び方も全部曲がっているようにして、一つ一つの窓の形もみんな違うものにするといったことをしています。そうすることによって、僕は、記憶の中にある未来みたいなものが出てくるような気がするんです。
また、この建築は、一つ一つの場所について、町の人一人一人の意見を聞きながらつくっていきました。和室なら和室だけを皆で考えたので、和室の脈略と今いるレストランの脈略は、ほとんどないんです。空間全部を同じように連続してつくってしまうよりは、場所ごとに個性を持たせて不均質な空間をつくるほうが、それぞれの部屋を訪れた人も楽しめると考えました。

藤本和室は和室で、ホールはホールでというように、町の人の要望を取り入れながら、しっかりつくって、それらを寄せ集めていったときに生まれてくる多様性みたいなものをむしろきちんとすくい上げていく。下をのぞいたら、違うプログラムのものが見えたりとか、脈絡がないものを意外なかたちで組み合せて、多様なものをより複雑に構築していく。昔の集落が時間をかけていろいろな人の手でつくられてきたことによってある豊かさが生まれているという状況を、設計手法として再構築している気がしまして。突発的な出来事とか、たまたま何かのはずみで生まれてきたプログラムとかをどんどんポジティブに建築の多様性に置き換えていく。そういうスタンスは、僕自身のやっていることととても共通するものだと感じました。建築としての現れ方は全く違うのですが(笑)。

「微分」とリアスホール

新居藤本さんは「GA」に書いた文章で「微分」ということを言っていますよね。あれはどういう意味なんですか。

藤本例えばこのリアスホールの図書館も、1個の箱でつくってもいいものなのに、あえてリング状にして他の空間に巻き付けていますよね。そうすると図書館はホワイエとも接点が持てるし、エントランスとも接点が持てて、いろいろなものと関れるようになります。そういう意識が、「微分」というか、空間を細かくしていくことなんです。細かくして並べ直してあげると、こっちではこっちの関係が出てきて、向こうでは向こうの関係が出て来ます。その空間に人間が入ってくると、いろいろなところでいろいろと違った体験が出来るじゃないですか。そんな意識を「微分」と言っているんですね。

新居なるほど、そういうことですか。僕はひたすら、足して足してという手法なので、藤本さんと設計方法は全く違うのですが、藤本さんがつくっている建物になぜか共感するところがあったので、一度聞いてみたいと思っていました。

不均質な空間をつなぐ

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ホワイエの壁面は階段状にせり上がり、洞窟をイメージさせる

新居このコンペは2004年に決まりましたが、僕が受かった理由の一つに、「ワークショップをやる」という提案をしたことがありました。ワークショップをやって、皆の意見を聞いていくときには、その人たちの建物に対する愛情も育てたいということも考えました。一つ一つの部屋について丁寧に打ち合わせをしていったということも、その方法の一つです。全体が一律にならないように、僕らが決めた手法を押し付けることもしませんでした。
また、その一つ一つの部屋をつなげるためのストーリーをつくりました。それが「デザインスクリプト」と呼んでいるもので、映画の脚本みたいなものです。そこに行くと、映画のシーンのようなものが連続的に起こるというように、この建物だったら、こういう感じでいこうというストーリーをつくるわけです。だから最初に不均質につくり上げていった各部屋をデザインスクリプトによるストーリーでつないでいって、建物の全体の構成をまとめあげていく。それによって、皆を説得するなり、一緒に考えていくということをやると、全員が自分も一緒に建築をつくっている気持ちになれます。

藤本「デザインスクリプト」ですけれど、先ほど、とにかく町の人からいろいろな意見が出てくるから、自分はそれに従うというお話をされていましたよね。その一方で、どんどん意外な意見が出てきて、そこから意外な発見をしていく楽しさみたいなことがあるのではないかと思うんですね。その中で、どこかで全体像が浮かんでくる瞬間が新居さんの中にあるのか、最後までわからないということが楽しいのか、その辺りをちょっとお聞きしたいのですが。

新居僕は、今回のようなワークショップ形式での計画では、きっとその過程の真ん中辺りが一番楽しいところだと思っています。
バーナード・ルドルフスキーが“Architecture without Architect”(建築家なしの建築)で示したことは、バナキュラーなものの中には近代建築を超える強さがあるということですね。人間はどこかに住んだときに、好きになる場所やものができると思います。でも今の日本はどこの町も画一化されているから、そこに住む人たちもそういう好きと言えるものが記憶のどこかにかすかにあったり、僕の中にもかすかにしかないので、簡単には出てこない。だから今回は、その一人一人の僕らとか相手に眠っているものをうまく引き出してあげることがまず大事でした。そしてそれを建築家が解釈して建築にしていく。そのために、デザインスクリプトをつくるのです。僕が今考えているのは、アルゴリズムみたいに、最初にルールを決めてやるのではなくて、設計段階の前半くらいまでの期間は皆で話して、一つ一つの個性ある場所を設計しておいて、そこから何かパラメータみたいなものをかけてあげるか何かすると、グワッと変わってくるような設計手法です。そういう建築のつくり方が理想的だと思うんですよね。
僕らはコンペの時にめったに形を出すことがありません。四角いブロックで出す時もありますが、プログラムとか入れる機能の提案で勝って、竣工の時には全く違うものになることが多いです。この建物も6年間かけてつくり上げてきましたが、最近は最初に1回形をつくったら、ほとんどそのままの形で建築をつくっている人もいるように思います。コンペでもそう感じる時があります。僕はこれまでの作品もそうですが、この形で本当にいいのかと常に自問自答していますし、長い時間をかけて苦しんだもののほうが、いいものができると思います。

変化を楽しむ

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エントランスとホワイエを繋ぐ廊下。空を漂う雲を表現した照明が天井を覆う

新居今、僕らは八丈島にホールをつくっていますが、島に建築資材を運ぶ時、鉄材は重さと長さで全部コストに跳ね返るから、鉄筋コンクリート造にしようと考えました。そこでコンクリートのトラスをつくろうと考えたら、構造を担当する今川憲英さんが、コンクリートが垂れてくるので、鉄筋を束ねたものでひっぱればトラスができると。そういうトラスを考えているうちに、それを八丈島だから八の字にしようとか、もっと何か違う形に転換していくことを求めていくのですが、だんだん妙な形になってきて、天井がイソギンチャクみたいな形の劇場にすることを思い付きました。それからが楽しいのは、そういうものが下から見える明かりのつけ方をしたら、きっと皆がすごいと思うとか、さらにイメージが膨らんでいくことです。そうすると最初に考えていたものとは、どんどん違った劇場になっていく。リアスホールのホールも、ワークショップで三陸海岸の波などの話をしているうちに、皆がだんだんその気になってきて、漁船の集団のようなバルコニー席の形状や、さざ波をデザインした椅子につながりました。
リアスホールはちょうどそういうやり方を考え始めた転換期の建物で、この建物をやっている6年間で僕らの事務所の考え方も変わりました。特に僕が変わったと思うんですね。

藤本今、新居さんが設計されている別のホールでは、コンピュータで型枠をやっていくようなことをしていると以前聞かせていただきましたが、そういうテクノロジーに対する貪欲さと、ワークショップで6年ぐらいかけて、建物をつくるというところが、どうつながるのかと不思議に思っていたのですが(笑)。今のお話を聞くと、実は全部新居さんの好奇心からくることなんですね(笑)。何か自分ではとらえることができない得体の知れないものに出会うとものすごくテンションが上がるというか。そしてどんどん突き進んでいく。その向こうに何か想像もつかないようなことが展開するのではないか、というイメージですね。僕自身も、僕自身を超えたいと常々思っているのですが、新居さんの場合には超えるどころか、自分が吹き飛んでも構わない、というくらいのどう猛さを感じます(笑)。

揺らぎを受け入れる

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ホール客席。天井は雲、照明は星空がイメージされ、バルコニー席は漁船の集団、客席はさざ波が表現されている

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図書館の閲覧室。図書館の一部はスロープの空間となっており、周回できるようになっている

新居リアスホールは実際のところ、最終的なかたちというのは、わからないところがありました。ホワイエの壁は階段がせり上がるような形状をしていますよね。それが完成してどういうふうに見えるかは、設計段階である程度想像はしていましたけれど、実際は最後まで誰もわからない。僕らも明確に最終形を想像してつくっているわけではないんですよね。

藤本この段々の壁面の空間は、町の皆さんに模型をつくって説明されなかったのですか。

新居部分の模型では見せましたが、全体がわかるような大きな模型で説明することはしてないです。だから完成して皆びっくりしていましたし、僕らも驚きました。プロポーションには自信がありましたけど、段々の形状は型枠を外すまで見えませんよね。どんなふうに見えるかは、出来たところ次第という気持ちでした
。 他の部分についても、現場の人や所員に、みんなの判断でおかしいと思えばディスカッションして決めようと言ってありました。そこで決まったことは僕も文句を言うことはありません。そういうスタンスでつくっていくほうが、いろいろな人が自分でやっていると思えます。

藤本もともと建築というのは、アーキテクトが全部仕切っていたわけではなくて、間取りを描く人や現場の人がいて、それぞれの人がそれぞれの価値判断をある程度共有しながらつくっていましたよね。多くの人が関わりますから、そこには揺らぎみたいなものが生じてきます。しかも時間が経って町という単位になってくると、その揺らぎは多様さみたいなものになって現れて、いわゆる不均質さの豊かさみたいなものが出てくると思うんですよ。そういうことを設計の手法でも、あえて気にしないというポジティブな姿勢や、あえてワークショップをやって、聞かなければ楽だったかもしれないことを聞き出して、それを面白がって取り入れるといったことをされるのは、本来建築が持っていた、いい意味での不均質さとか、揺らぎの豊かさみたいなものを現代建築でつくり出そうとされているのかなという気がしました。その部分にすごく共感しました。人間の歴史の中で、建築がつくられてきた本来的な意味、状況などを、近代以降の建築は切り捨ててしまっている。なぜ昔の集落が豊かに見えるのか、たぶんそういう人間活動の多様さがそのまま場所の多様さになっているからだと思うんですね。それらをこの現代という時代に、いかに回復していくか、という大きな問いだと思います。そして何より、その一番根っこを支えているのが、新居さん自身のあくなき好奇心だというところが、やはり嬉しいですね。

新居千秋Arai Chiaki

新居千秋

1948年 島根県生まれ
1971年 武蔵工業大学工学部建築学科卒業
1973年 ペンシルベニア大学大学院芸術学部建築学科修了
1973年 ルイス.I.カーン建築事務所
1974年 G.L.C(ロンドン市テームズミード都市計画特別局)
1977年~ 武蔵工業大学講師
1979年~ 東京理科大学講師
1980年 新居千秋都市建築設計設立
1998年 ペンシルベニア大学客員教授
2008年 東京都市大学教授(旧武蔵工業大学)

<主な作品と受賞>
1982年 水戸市立西部図書館(89年SDReview入選、93年第18回吉田五十八賞)
1995年 黒部市国際文化センター/コラーレ(96年日本建築学会賞、98年アルカシア賞ゴールドメダル等)
2002年 横浜赤レンガ倉庫(04年BCS賞、日本建築学会業績賞、06年第10回公共建築賞等)

藤本壮介Fujimoto Sou

藤本壮介

1971年 北海道生まれ
1994年 東京大学工学部建築学科卒業
2000年 藤本壮介建築設計事務所設立
現在 東京大学特任准教授、慶應義塾大学・東京理科大学非常勤講師

<主な作品と受賞>
2003年 伊達の援護寮(04年JIA新人賞、AR AWARDS2005入賞等)
2003年 安中環境アートフォーラム国際設計競技 最優秀賞
2005年 T house(AR AWARDS2005入賞、平成18年東京建築士会住宅建築賞金賞等)
2005年 くまもとアートポリス設計競技2005「次世代モクバン」最優秀賞
2006年 情緒障害児短期治療施設(AR AWARDS2006大賞、2007 KENNETH F. BROWN ARCHITECTURE DESIGN AWARD入選、08年JIA日本建築大賞等)
2008年 Final Wooden House(08年World Architectural Festival - 個人住宅部門最優秀賞等)

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