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空間談義

空間談義 54 ユーモアと建築

フラワーショップH (日比谷花壇日 比谷公園店)外観。外壁は、国道を挟んで建つ日生劇場(日本生命日比谷ビル)と同じ御影石張りとした
(撮影:阿野太一(以下全て))

空間談義 54LIVE ENERGY vol.92掲載

ユーモアと建築

乾久美子建築設計事務所 乾 久美子 vs 西沢大良建築設計事務所 西沢大良

周辺環境に応える

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フラワーショップHは分棟となっており、一つずつの棟の面積が小さく、天井が高い

西沢さんには昨年、群馬県の「スモールハウスH」を見ていただきました。そして今日は、竣工したばかりの「フラワーショップH」と呼んでいる「日比谷花壇日比谷公園店」を見ていただきました。この2作品は場所もプログラムも全く異なり、方向性も違うのですが、自分の中では面白くなったと思っています。まずは日比谷花壇のご感想をお聞かせいただけますでしょうか。

西沢すごくいいですね。非常に単純な建物ですけれど、いろんなことに応えていて、いろんな見え方をしますね。最初に僕は公園の中から日比谷花壇にアプローチしたんですが、暗い森の中を歩いていくと、突然明るくてカチッとした建物が現れる。分棟ですが、公園の出入口のところにあるので、街の予告編みたいな感じで現れるのですね。それがまず良いなあと思いました。
次に、公園の出入口の広場に回ると、また見え方が変わりますね。

変わりますね。

西沢大きく見える。というのも広場に面して一番大きな棟があるからですが、広場の中で花屋さんのアクティビティが魅力的に見えるようになっています。舞台のパフォーマンスみたいに見えますね。
それから、今度は外の日生劇場側の歩道から見ると、周囲の木々と一緒に公園全体のファサードをつくっているような印象になる。日比谷公園の手前は国道なので、大型バスなども走るわけですが、高さがたっぷりあるから埋没しないのですね。公園の木々も高さがあって車の流れに埋没しないという意味では、木々と同じように外界に反応しています。さらに、もう少し日比谷の街中から見ると、日比谷公園の緑の上空に霞が関の高層ビル群が見えてきますが、分棟なので高層ビル群と同じ文法でつくられたようにも見えてくる。というわけで、単純な建物なのに、近くの問題から遠くの問題までに応えている。鬱蒼とした森の中にあること、広場の中のお花屋さんであること、日比谷の街との接点にあること、遠くに高層ビル群があることなどに、全部応えています。見事です。

日比谷花壇から依頼を受けて敷地を見た時に、ただの公園というコンテクストと、都市の中の公園の中というコンテクストとは違うと思いました。公園の向こうに、霞が関の省庁群が見えてしまっているので、公園に奥深さのようなものは感じることができなくて、薄っぺらい公園の限界を前提としながらつくらなければいけなかったのです。つまり日比谷花壇の敷地は、公園に求められているような快適さとか開放感が少し弱いような感じだったので、そこに建築をつくるときに、「公園」という概念だけに応答してしまうのでは間違っているだろうな、都市にも公園にも沿うような建築でなければならないなと考えました。そこで周りを見回してみると、都市の環境に沿うような周りのアイテムとしてはビルぐらいしかなかったので、「ビルらしく、公園らしい」というのはどういうことかと考えて、ああいう形にしたのです。

西沢それで背の高い分棟にしたと。

ビルらしいというのは、全くアイコン的な考え方なのですが、四角くて、プロポーションが縦長ということです。それを実現するために分棟にしました。また、建築を分割して一個一個のインテリアが細くなると、今度はインテリアの体験として屋内なのか外部なのかが非常に分かりにくくなっていきます。公園には木が鬱蒼としていますが、木々の中の体験はある意味特殊です。木々の中というのはインテリアではないのに、インテリアとしての心地よさというものが確保されていて、その中間的な存在というものに対抗するためには、違う方向で木と似たような空間をつくることが必要と思って、小さくて背が高いというものを試してみるのがいいかなと。そういう二重の意味があって、分割して高くしたビルのようなものを寄せ集めるということをやってみたわけです。

ユーモラスな建築

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フラワーショップHの屋内は、高い天井高に加えて、四方全てが大きな開口部となっており、開放感にあふれる

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フラワーショップHの開口部には高透過ガラスが使われ、隣の棟の屋内や周辺の景色がクリアに見える

西沢乾さんという人は、世間ではわりと感覚的な人、感性の人だと思われているのかもしれませんが、僕の印象はやや違って、感性だけではないところが面白いと思っています。

そうなんですか。

西沢群馬の「スモールハウスH」でもそう思いました。あれも単純ですが不思議な建物です。一般的にはセカンドハウスなのかもしれませんが、既に母屋があるので、そちらの方が普通の意味ではセカンドハウスです。つまり乾さんの建物は、セカンドハウスのセカンドハウスみたいな状態になっていますね(笑)。

そうですね。あれはお施主さんが、山間の谷底のようなところにあった古くて大きな農家を、セカンドハウスとして使うために、敷地全体を購入されました。その敷地の中にさらにもう一個何かを建てたいと依頼があって、そしてプログラムはゲストハウスとして使うことができる「セカンドハウスみたいなもの」だったので、セカンドハウスのセカンドハウスというようなことになっていますね。ユニークな依頼ですよね。

西沢なるほど。みたいなものか。

敷地は、母屋の裏の空いているところということでした。そこは特にこれといった特徴もなく、谷底ですから眺望が広がるわけでもない。しかも周辺には、安っぽい緑色のフェンスがあって、それが中途半端なところで終わっている。さらに別の場所にも黒い錆びたフェンスがあって、これも途中で終わっている。ヘンテコな特徴は他にもたくさんあって、特に意味がない位置に石灯籠がいくつかあったり、母屋の外壁がずっと改修中だったりしました。そこに友人を招待できるような建築をとおっしゃるので、ううむ、と考えこんでしまいました。周りをきれいにする予算もないから、新しくつくる建築だけで、この状況を何とかしなければいけないと思ったんです。それで実は、西沢さんが以前書かれた「分類されたゴミは美しい」という文章を参考にしたのです。

西沢「現代住宅研究」(INAX 出版)の中の「室内風景1」に書いた文章かな。ゴミの分類を細かくしていくと、だんだんゴミが美しくなってきて、最終的にはゴミではなくなってくると。

群馬の敷地も、フェンスや石灯籠などの強い要素がごちゃ混ぜに散乱しているような風景が、ゴミとまでは言わないけれど、美しくなく見えているのだろうと。それでとにかく分類さえすれば、周囲の風景が綺麗に見えてくるに違いないと思って、建物を回転させたり、真ん中を対角線で仕切るということをしてみたりしたんです。そうすると、この部屋からは、緑と黒のフェンスが絶対に見えないといったことができて、風景が生まれ変わりました。

西沢群馬の作品は、母屋の付属建築かと思いきや、そういうものではないですね。母屋は古い木造なのに、乾さんの作品だけがコンクリートで、やたらと独立的に建っている。僕は一目見て、母屋の付属建築ではないなと思った。では何に付属しているのかと言うと、隣の錆びたフェンスに付属していたりするのです(笑)。

そうかもしれません。

西沢もう一つ言えば、プランは四角い平面を対角線で仕切って、三角形の部屋が4つあります。一見すると図式的なプランですが、行ってみると全く図式的ではなくて、部屋直前の不思議な居場所になっている。

部屋直前ですか。

西沢ええ、部屋になるかならないかのギリギリの居場所。そういう部屋未満の居場所が4つあって、それらが家型を成している(笑)。
つまり、何を言いたいのかと言うと、先ほどのセカンドハウスのセカンドハウスとか、フェンスに付属する建築とか、部屋直前がお家の形になっているのは、ちょっとユーモラスなことだと思うんです。一種の知的なユーモアというか、理論的なギャグみたいな印象がありますね。

理論的ギャグですか。

西沢ええ。物事を認識することは、本質的にユーモラスなことですから。あのユーモラスな感じは、知的なものが入っていないと出てこないと思うんです。例えば、あれをもっとシャープに納めて、よくある図式だけの作品にしようとしたら、乾さんなら簡単に出来ると思うんです。

出来ますね。

西沢でもそうさせない何かが、乾さんの中にあるのでしょう。それを知性とか認識と言ってみたんですね。

「理論的なギャグ」という話がありましたが、私はものをつくる時に、ユーモアというのが重要な要素だと思っています。建築だと正面切ってユーモアをつくりたいとは、なかなか言えないんですね。でもそれが自分ではすごく大切にしていることなので、指摘していただいたのは非常にありがたいと思いました。

都市とビルディングタイプ

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スモールハウスH外観。正方形の平面を対角線で間仕切り、4つの三角形の部屋がつくられた。右手は外壁改修中の母屋

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スモールハウスHの室内から外を見る。建物の配置等で、古い農家の裏庭にある様々な要素を分類し、各部屋から見える景色を魅力あるものにした

西沢ところで日比谷公園という場所は、英語の都市計画用語で言うと、オープンスペースだと思うんです。

公園ではなくて、ですか。なるほど。

西沢ええ、ボタニカルガーデンとかではないです。オープンスペースは日本語では「緑地」と訳されていますけど、原義的には「空地」です。日本の都市公園は、まさに「空白の土地」だと思うんです。植物が無意味に繁茂しているとか、浮浪者が集まってしまうとか、無法地帯とは言わないまでも、ヌルい「空白の土地」になっている。そういう場所に、日比谷花壇のような秩序のつくり方をしていくと、うまく都市の一部になるかもしれないなと思いました。つまり乾さんのつくり方には、意外と都市に言及しているところがあります。

おお、そうですか。

西沢乾さんはビルディングタイプの説明をしないけれど、作品はなぜかビルディングタイプに特徴がありますね。ビルディングタイプとは、建築型とも言いますが、部屋の数や密度や階数だけで建築を判断するという、レントゲンのような見方です。群馬にしても日比谷にしても、既に建築型がユニークでしょう。三角部屋が4つあるとか、背の高い分棟というのは、建築型の問題ですから。
もともと建築型とは、都市計画と建築設計との接点です。例えばヨーロッパの都市の場合、集合住宅などは都市計画とスタンダードで決まるから、300人/haのエリアだと4階建ての団地になるとか、500人/haでは高層集合住宅になるとか、都市の人口密度分布が集合住宅の建築型を決定しています。ところが日本の集合住宅は、都市の人口密度分布とは関係がないから、訳のわからない建築型になっている。集合住宅以外の都市施設もそうですけどね。要するに、ヨーロッパではトップダウン式に都市から建築が決まってくるのに対して、日本ではボトムアップ式に建築から都市を生成していくことになっている。
都市公園を敷地にするとなると、最終的にはそういう日本の都市の問題にぶつかると思うんです。しかも今回の乾さんの建築型は、日本の都市公園を改良するアイデアのようでもある。乾さんは、ビルディングタイプとか、あるいは都市でもいいですが、特別な興味があるんですか。

そういうビルディングタイプの話は、正面切って考えているわけではないのですけれども、私はコンテクストということに非常に興味があります。コンテクストを使いきりながら、建築をつくりたいと思っていて、コンテクストによって根底からその建築が変わったということが起きたほうがいいと強く思っています。もちろんそれは全ての建築でうまく出来るわけではないのですが、たまたまうまくいくと、そのコンテクストの中に内蔵されているビルディングタイプの話とか、そういったものに触れることが出来るのかもしれませんね。

西沢そうですね。建築が根底から変わるというのは鉄則ですね。乾さんはどうやって設計を進めますか。

結構紆余曲折します。日比谷花壇も最終的にうまくいきましたけれども、設計途中には、大変格好が悪い、全く違う案もあったんです。

西沢そうですか。

とにかくワラをもつかむ思いで、何かネタがあればそれで引っくり返して考えるということはやります。

西沢いつも設計中に、そういう危機が訪れますか。

危機はよく訪れますね。

西沢もしかしたらそれが重要なのかもしれないな。そこで感覚だけではない何かが混ざってくるのかな。

それはあります。うまくいったと考えている作品は、設計がかなり進んでからやり直していることが多いです。やり直す頃になると、コンテクストがかなり分かってきているし、いろいろな状況がかなり俯瞰的に見える状況になっていて、その上で案を考えると当然密度の高い案になります。

西沢なるほど。

私は、明快に自分がこういうコンセプトでものをつくっていますということが言えるタイプの人間ではなくて、条件を与えられないと考えられないタイプの設計者なんだと思います。ただ、与えられた条件に素直に答えるだけでは物足りないと思っていて、与えられたものを皆がユーモラスだと思えるところまで高めたいという気持ちだけは強いんです。そういうつくり方しか出来ないということで、最近はもう居直りをするようになってきました。それは成長なのか、もしくは退化なのか分からないですけれど、変わってきたことだと思っています。

西沢乾さんの著書「そっと建築をおいてみると- episodes」でもそうなんですが、もともと乾さんの発見は、意外なところから始まりますよね。ウサギを見つけた話とか。

片岡台幼稚園の改装の話ですね。

西沢ええ。雑然とした書類の山の中から突然ウサギが出て来たという話。そういう経験は、通常の理論からはこぼれてしまう話ですね。理論という形では語れない認識や発見というものがありますから。ただそれにこだわることは、すでに知的な態度なんですね。乾さんの設計の原動力は、その辺りにある気がします。

なるほど。建築でも著書でも、私が理論として表現できないけれども、それ以前のものが見えて、それを面白く思ってくださっているということですね。いつも不安な気持ちで設計作業を進めていますが、今日はいろいろと勇気を与えていただいたように思います。とても嬉しいです。ありがとうございました。

乾 久美子Inui Kumiko

乾 久美子

1969年 大阪府に生まれる
1992年 東京藝術大学美術学部建築科卒業
1996年 イエール大学大学院建築学部修了
1996~2000年 青木淳建築計画事務所勤務
2000年 乾久美子建築設計事務所設立
現在 東京大学、東京藝術大学、早稲田大学、京都工芸繊維大学にて非常勤講師を務める

<主な作品>
2001年 片岡台幼稚園の改装
2003年 LOUIS VUITTON KOCHI
2003年 ヨーガンレール丸の内
2004年 DIOR GINZA
2004年 新八代駅前モニュメント
2005年 ヨーガンレール心斎橋
2006年 LOUIS VUITTON TAIPEI BUILDING(台湾)
2007年 アパートメントI
2009年 スモールハウスH
2009年 フラワーショップH

<主な受賞>
2007年 新建築賞

西沢大良Nishizawa Taira

西沢大良

1964年 東京都に生まれる
1987年 東京工業大学卒業
1987年 入江経一建築設計事務所入所
1993年 西沢大良建築設計事務所設立
現在 東京理科大学、日本大学大学院ほかにて非常勤講師を務める

<主な作品>
1996年 立川のハウス
1998年 大田のハウス
1999年 諏訪のハウス
2003年 調布の集合住宅A
2003年 調布の集合住宅B
2004年 砥用町林業総合センター
2008年 駿府教会

<主な受賞>
1997年、99年、01年 東京建築士会住宅建築賞'97、同'99、同'01金賞
2005年 AR AWARDS 最優秀賞(英国)
2006年 JIA 新人賞
2007年 バーバラカポチン最優秀国際賞(伊国)
2009年 FAITH & FORM AWARDS 最優秀賞(米国)

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