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空間談義

空間談義 56 住民参加と建築・まちづくり

岩見沢複合駅舎南側ファサード。137mの刻印レンガと古レールカーテンウォール(撮影全て:小川重雄)

空間談義 56LIVE ENERGY vol.94掲載

住民参加と建築・まちづくり

ワークヴィジョンズ代表 西村 浩 vs 東京大学大学院准教授 千葉 学

建築と住民参加

千葉 岩見沢複合駅舎のコンペの時に僕は審査員をやっていたのですが、実は西村さんの案をある1 点で、1 等にふさわしくないと思っていました。その理由は、線路側に対して閉鎖的な、背を向けた案だったからです。しかし最終的には、その部分が180 度変わって開放的な姿になっていましたね。駅舎というのは、街の玄関口でもあるし終着点でもあって、色々な意味で、本来表裏があってはいけない建物だと思っています。完成した駅舎が、そういう点をきちっと実現していて、非常に安心しましたし、さすがだと思いました。

西村 ありがとうございます。

千葉 僕は実際の空間をまだ体験していないので、なかなか印象では語れないのですが、今日いくつか聞いてみたいと思っていたことがあります。
一つは、この駅舎ができるまでに、「らぶりっく!!いわみざわ」というプロジェクトを立ち上げて、壁面に使う刻印レンガを世界中から募ったり、まちづくりのワークショップを開催して色々な人を巻き込んだり、広範な活動も並行して展開してきましたよね。このプロジェクトは、そうした草の根運動的な側面が一番の特徴でもあると思うし、本当に素晴らしい成果をあげていると思うんですね。それは今回のプロジェクトの特殊性から生まれたことなのか、それとも普段からそういう設計の仕方をしているのか、そのあたりのことから伺えますか。

西村 僕は土木工学科の出身で、卒業後は建築の設計事務所に勤めて、12年前に独立しました。独立した時に、大学の恩師の勧めで建築と並行して土木の仕事もするようになったのですが、土木の仕事も建築の仕事も、ディテールへのこだわりとか、出来たものの美しさというところに喜びを感じてやっていて、市民参加的な手法については全く考えたことがなかったんです。そんな時に、この岩見沢複合駅舎のコンペの直前でしたが、三重県の鳥羽の市民の方々から声がかかって、「カモメの散歩道」という海沿いのプロムナード整備に関わることになったんです。それが僕が初めて「市民」と接した仕事でした。市民の方々と共に、模型を見ながら設計を進めたり、工事段階で現場で使う素材を決めたりということをやっていくと、完成した時に、出来上がった空間を市民の方々がとても大事にしてくれるんだということを実感しました。完成後は、住民自ら毎日交代で掃除をしてくれていて、市民参加というのは単なる合意形成ではなくて、こういう意味があるんだなということを感じました。そういうありがたい経験をした直後に、たまたま岩見沢複合駅舎のコンペがあって、市民参加という取り組みを組み込んで提案したというのが実際のところです。

千葉 コンペということで仕事の枠組みがあらかじめ用意されていたという点では動きやすかったのかもしれませんが、JRや自治体との調整に加えて住民参加となると、設計プロセスはものすごく大変だったと思うのですが、基本的には西村さん自らが出向いていって、住民に働きかけたりしたわけですよね。

西村 そうですね。特別な意識なく自然体でそういう流れになりましたね。普通だと行政から市民が呼ばれて、何となく“対立の構図”から始まるというのがありがちな光景ですが、今回は、自然に市民の方々と話ができて、「市民協働で刻印レンガプロジェクトをやりましょう」となったところに、行政やJRの方々が合流したというのが、今回の流れでしたね。

千葉 ただ、住民参加を受け入れるなら、案を根底から考え直すくらいのドラスティックなプロセスもあり得たように思うのですが、今回は、全体のデザインの枠組みはコンペ案からはずしていない。その範囲内でできることを住民にやってもらうという、西村さんの仕切りが非常に巧みであるというか…。でもそれは、ある意味で予定調和的なプロセスのようにも見えてしまうのですが、その辺についてはどうですか?

西村 今回は、駅舎の壁を刻印レンガで積み上げるという、実際に市民の方々が関わった事実が刻まれるという方法をとったことによって、これまでは知らぬ間に出来上がっていた公共建築という存在に対して、市民が「自分たちでつくり上げた」という感覚を持つことができたのではないかと思います。設計の過程で、建物のデザインそのものに対する意見があまり市民から出てこなかったのは、このことが一つの理由かもしれません。他のプロジェクトでこういう方法をとれば本当に合意形成がスムーズにうまくいくかということは、もう一度よく考えなければいけないのですが、岩見沢複合駅舎のように、“頭”で関わるのではなく、身体的にあるいは精神的に関わっていけるような仕掛けのほうが、恐らく市民にとっては愛着が湧く方法なのかなということは感じました。

千葉 「せんだいメディアテーク」ができたときに、とても興味深く思ったことがあります。つくるプロセスはあまり詳しく知らないのですが、できてからは住民や様々な市民団体に積極的に使われて、街に大きなインパクトを与えています。で、僕はその原動力は、あのチューブ柱の不自由さにあるのではないかと思っています。あの巨大なチューブの柱のおかげで、空間をどう使ったらよいかをいつも考えないといけなくなっている。それこそ机のレイアウトをどうするか、どこを裏方にしたらいいかといった議論が職員の方も含めて繰り広げられている。それが結果的に住民の様々な活動を促す原動力になっていると思うんです。
空間が、使用者に対してある意味で使いにくい部分を残している。そういう説明不可能な側面があるからこそ、使いこなそうとする意志も生まれている。そのような空間からの投げかけのようなものは、岩見沢複合駅舎の場合には、何だったと思われますか。

西村 そういう意味では出来上がってからがなかなか難しいなぁと思うことはありますね。「駅からまちづくりがはじまる」と、完成するまでは市民の方々も意気込んでいましたが、やはり完成してしまうと皆さんのモチベーションがちょっと下がっていくんですよね。その勢いを持続させるためにも、今でも僕が岩見沢に足を運んで、市民の方々と改めてこれからのまちづくりについて意見交換をしたり、駅舎の北側にある古い赤煉瓦の「レールセンター」の活用の検討を始めたりしているんですが、単体の建築だけでは、まちづくりはなかなかうまくいかないということがよく分かりましたね。

千葉 なるほど、できてからもこうして関わり続けていることで見えてくることもあるわけですね。その継続性は、素晴らしいことですね。

建築家のこれからの職能

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“鉄道の街”の記憶を伝える古レールと刻印レンガ

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ガラスのスキンに囲まれたレンガの箱とセンターホール

西村 この岩見沢複合駅舎が完成して、色々な雑誌に掲載された後、地方のいくつかの町から、「うちの町は人がいなくなって、町が疲弊して困っている。何とかしてください」という相談が増えました。これって建築をつくるということでもなく、道路をつくるということでもなく、「何とかしてほしい」という相談なんですね。どうしていいかわからないという状況が日本の地方都市の実情で、僕は、このニーズにはなんとか応えなくてはいけないなと思っていて、今、僕の出身地である佐賀の中心市街地のまちづくりに関わっているんです。
佐賀の街中の商店街は、すっかり寂れてしまっていて、ちょっと立ち寄る喫茶店なんかも一つもない状況になってしまっているんです。何とか佐賀特有の何かを拾い上げながらまちづくりを考えていきたいと思っていますが、その中に、ほかの街にも応用できるような方法論を見つけたいと思って、試行錯誤してるのですが、その答えがなかなか見つからない。
千葉さんが書かれた「site specificからsite determinedへ」という論文や、著書「そこにしかない形式」とかを読んでいると、千葉さんも何か土地にある個性を探しながら普遍的な方法論を見い出そうとされているところがあって、すごく共感するところがあります。岩見沢の現象は決して普遍的な方法にはなれないと思うけれど、それを発展させて「形式」というものに昇華させていく何かを探したいと思っているんです。

千葉 それはソフトな側面においても形式が成立しうるということですね。確かに僕たちの職能は建築をつくることですが、それができてからどう使われるのか、あるいはどのような建築が必要なのか、そんな建築以前、建築以後についても関わる必要性は強く感じますね。

西村 僕もそう思います。ただ、近年は「建築はハコモノ」と、ある意味悪者扱いされてきたこともあって、なかなか建築や道路といったモノをつくることが難しい時代が続いてきました。それでまちづくりとなると、イベント等のソフト的な手法を主体にずっとやってきた状況があるようです。ただここに来て、自治体の方々が「やっぱりモノをつくらないと駄目だ」って言い始めています。何かハードとしてのモノをつくるという力を借りないとなかなか持続的な日常的な賑わい再生は難しいということを感じ始めているようなんですね。ある町の行政の方は、「そろそろ何かモノをつくってもいいじゃないか」と言うんです。ただし、「何をつくるかも考えてほしい」という相談になるんですけどね。

千葉 なるほど。

西村 そういう頼まれ方をすると、建築だけで何かをしようという話にならなくなってくるんですね。本当に、都市構造から変えていかなくちゃならない。でも街の中が空き地と空き家だらけの現状の中で、「何かをつくってもいい」と言われても、再開発的な手法で床を増やしてもテナントはなかなか決まらないし、決まっても長続きしないことが見えている中で、これからは床を減少させながら、街に賑わいを取り戻す方法を考える必要がある。そして、街中の空き地を建築で埋めていくのではなくて、むしろ空き地を増やす方向でそのあり方を再構築しながら賑わいを集約していくような方法論を探さなければいけないということになると、やはり建築を超えた発想を自分の中で持たなければいけないと痛感しているところがあります。

千葉 僕もよく地方都市に行きますが、もっと人が集まる魅力的な場所にする方法があるのにと思うことが度々あります。そういう潜在的な魅力を見つけていくことも、僕たちに期待されている役割ですよね。 「日本盲導犬総合センター」が、富士山麓という素晴らしい場所にできたことで、僕も富士山を自転車で一周するイベントを考えたりしましたが、それは単にイベントを超えて、様々な地域の新しい関係性を見つけることにもつながっています。

西村 本当にいい所にありますよね。

千葉 富士山を一周すると、ちょうど100km。それまでは、富士山を一周するというイベントはあまりなかったんですね。それぞれの街が、自分のところから見る富士山が一番だというような感じで…。その意味でも貴重な場になったのですが、一度富士山一周という絵を描いてみると、その沿道に人の集まる拠点や様々なきっかけを考えることにもリアリティが出てくる。そんないくつものチャンネルを持ったネットワークが築いていけるといいなと思っています。

西村 そういうイベントをやることで100kmという一本のラインをつくり出したわけですよね。そうすると今まで見えていなかったつながりであるとか、新たな構図が見えてきて、そこから新しい何かが生まれそうな感じもしますね。

千葉 そういう潜在的な関係性は、すでにたくさんあるわけですよ。それを見つけるだけでも、全く新しい建築を一つつくるということ以上に価値があるし、逆に建築を一つ一つつくることの意味も、より確かなものになってくる。

西村 そうですね。何かを単体でつくるという時代から、そういうものが数珠つなぎになって何か大きな枠組みを新たに生み出す、そういう社会づくりをしていかなければいけないなと思います。

建築と土木の融合にみる可能性

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市民ギャラリー。透かし積みのレンガ壁で木漏れ日のような光につつまれた空間

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まちのゲート「有明連絡歩道」

千葉 話は変わりますが、西村さんは土木出身という、かなり特異な経歴をお持ちですね。僕は土木に対するある種の憧れがあって、というのも土木は、実は「そこにしかない形式」そのものではないかと思うことがあるからです。ダムなんかまさにそうではないかと。だからいつも建築を土木的につくりたいというか、それこそ擁壁やダムの延長としてつくれないかと思うことが度々あって、そうしたら建築も、ものすごく面白くなるのではないかと。そのあたりのことについてはどう感じられていますか?

西村 僕は土木から建築に来たので、もともと建築に対するコンプレックスからデザインの思考が始まっているんです。そのために自分の思考の中で、極端に建築側に行き過ぎていたところがあったのですが、やっと最近土木のよさが見え始めたような気がしていて、今は両方のいいところをなんとか融合させたいと思っているところです。千葉さんは僕とは逆の立場で、土木に憧れがあって、土木のよさを評価して、今度はそこから建築に戻していこうということをやろうとされているんですね。

千葉 僕は高速道路の柱脚なんかを見ると、あそこに家が3つ4つ入るなと考えてしまう(笑)。そもそも思考のスケールも違うし、現実に分野としても土木と建築は分かれている。でも、環境としては本来ひとつながりのものであるわけだから、お互いにもっと利用しあっていくような視点を持ち込むと、建築も変わっていくように思っています。僕は土木は勉強していませんが、両方のバックグラウンドを持っている西村さんには、建築的でないアプローチをしてもらいたいとも思います。

西村 これからの都市をつくっていく中で、そういう複眼的思考というのは必要だと思います。千葉さんのように建築にいる人から見て思い付く発想と、土木にいる人が思い付く発想というのは全然違っていて、それをぶつけ合ったところに、何かが見えるような気がします。

千葉 建築の善し悪しは、そこに注がれたエネルギーの総量が全てだと思うことがよくあります。その意味では、ハコモノ行政が悪いのではなくて、結局は質の問題だと言うこともできます。今回、これだけ多くの人を巻き込んでつくり出された西村さんの建築は、その意味でも大成功しているし、建築をつくるプロセスも含めた新しい可能性を見せてくれたと思います。
その一方で、出来上がったものが非常に建築的過ぎるなと思う部分もあります。西村さんの強みでもある土木的な側面がもっとあらわになってくると、建築のデザイン自体ももっともっと変わっていく可能性があるのではないかと。西村さんには、是非そういうアプローチを期待したいですね。

西村 もうちょっと土木的な思考をというご指摘はその通りかもしれません。僕自身、土木と建築の間をさまよっているようなところがあって、鋭いところを突かれたなと思いました。今日はありがとうございました。

西村 浩Nishimura Hiroshi

西村 浩

1967年 佐賀県生まれ
1991年 東京大学工学部土木工学科卒業
1993年 東京大学大学院工学系研究科修士課程修了
(株)GIA設計入社
1999年 ワークヴィジョンズ設立
現在 (株)ワークヴィジョンズ代表取締役、日本大学非常勤講師、東北大学非常勤講師、北海道教育大学特任教授

<主な受賞と作品>
2004年 グッドデザイン賞金賞(長崎水辺の森公園(橋梁群担当))
2005年 グッドデザイン賞(鳥羽海辺のプロムナード「カモメの散歩道」)
2007年 土木学会デザイン賞優秀賞(長崎水辺の森公園(橋梁群担当))
2008年 土木学会デザイン賞優秀賞(鳥羽海辺のプロムナード「カモメの散歩道」)
2009年 第54回鉄道建築協会作品賞最優秀協会賞(岩見沢複合駅舎)
2009年 グッドデザイン賞大賞(岩見沢複合駅舎)
2010年 日本建築学会賞(岩見沢複合駅舎)

千葉 学Chiba Manabu

千葉 学

1960年 東京都生まれ
1985年 東京大学工学部建築学科卒業
1987年 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了
(株)日本設計入社
1993年~ ファクター エヌ アソシエイツ共同主宰
2001年 千葉学建築計画事務所設立
現在 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻准教授、日本女子大学家政学部住居学科非常勤講師、早稲田大学芸術学校非常勤講師

<主な作品と受賞>
1997年 和洋女子佐倉セミナーハウス(JIA新人賞、BCS賞、グッドデザイン賞、千葉県建築文化賞、日本建築学会作品選奨)
2001年 黒の家(東京住宅建築賞、日本建築学会作品選奨)
2004年 MESH(第21回吉岡賞、グッドデザイン賞)
2006年 日本盲導犬総合センター(AACA賞優秀賞、BCS賞、日本建築家協会賞、日本建築学会賞)

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