
(LIVE ENERGY vol.87掲載)

東京ガス(株)では、本年2月25日に、東京・千駄ヶ谷の津田ホールにて、アーキテクトセミナー2008を開催しました。 今回は、一人の建築家による講演会という従来のスタイルではなく、東京ガスが現在、栃木県宇都宮市で進めている「SUMIKA Project(スミカプロジェクト)」をテーマとし、このプロジェクトに参加されている伊東豊雄氏、藤森照信氏、西沢大良氏、藤本壮介氏の4人の建築家にご登壇いただきました。 第一部では各氏がこのプロジェクトで設計している作品についてご講演いただき、第二部ではシンポジウムとして、4氏による座談会を行ないました。 ここではその一部をご紹介します。
SUMIKA Projectとは、東京ガスが所有する栃木県宇都宮市の3つの社用地を活用し、ガスによる新たなコンセプト住宅3棟とパビリオン1棟を建設するというプロジェクトです。全体プロデュースとパビリオンの設計は、建築家・伊東豊雄氏が担当。
人間が本来持っている「プリミティブ」な感覚を呼び覚ますような五感で感じる住まいを実現するべく、藤森照信氏、西沢大良氏、藤本壮介氏の3人の建築家が、コンセプト住宅を設計します。竣工は本年11月を予定しております。
(※「 」内は第一部の講演でのコメント)
作品概要:
プロジェクト全体を紹介するプレゼンテーションコーナーや、地元素材・食材を利用した料理体験スペースを設けたパビリオン。9m四方の大きさの木造。構造用集成材を使って、4本の柱から樹木が枝を広げるように、幾何学的なパターンを描いて伸びる架構がつくられる。トップライトからは光が注ぎ、大テーブルやキッチンを囲んで、人々が木陰に集うような場所となる。
「今回の架構の形態は、六角形に操作を加えてつくっていきました。有機的な形態のイメージを、どのような幾何学に置き換えていくかが、今の私の興味の対象です」
作品概要:
コンセプト住宅の一つ。「人類の住まいの原型の一つは洞窟である。外に向かってはポッカリ口を開けた穴の中に火があり、火の回りには人が座っていた。火の上では食べ物が温まっている。そんなすみかのような住まいをつくりたい」ということで、住まいの中心に、天井の中央部が高く、洞窟を思わせるような、三間四方の「九間」がつくられる(ガスストーブ(暖炉)あり)。その他に寝室と茶室が設けられる。
「展示会用以外に、模型はつくったことがないんですね。模型にしなければ分からないようなことは考えることができないし、最初から具体的な形しか考えていないんです」
作品概要:
コンセプト住宅の一つ。地上4mの高さに半透明の屋根を浮かばせた、ワンルームの住宅。半透明の屋根には明るさの濃淡があり、ひときわ強い日差しが、朝はベッドに、正午にはキッチンに落ちる。住み手が日差しを求めて住宅内を移動すると、一日の生活リズムが自ずとできあがる。壁は全て建具で、天気が良い日に開放することで、敷地いっぱいに生活シーンが広がる。
「屋根を通して自然を感じられるようにしたい。という考えを一歩進めて、建築(屋根)が住み手に生活のしかたを教えてあげる、という住宅を設計してみました」
作品概要:
コンセプト住宅の一つ。12個の2~3m角のキューブを3層にランダムに並べ、住空間をつくる。そのキューブの頂上や地上面には樹木を植え、「家と街と森とが分かれる以前にさかのぼった、住むための大きな領域のような場所」を生み出す。それは、人が住むということの複雑さや曖昧さ、豊かさをすくい上げてくれるような場所となる。「地球」を一軒の家にしたような空間がイメージされている。
「一つ一つの箱は、個室や外部空間等になります。リビングは箱に囲まれた間の空間につくります。役に立たなそうな場所などいろいろあって、探検すると非常に楽しいんです」

伊東 今日のお話を伺っていて、自然との関わり方、木の扱い方をめぐって、こんなにもそれぞれの作品が違うかと、大変興味を持ちました。
藤森さんの作品は、「太鼓落とし」という方法で製材された太い木が印象的でした。藤本さんの作品は、大きなプラントボックスのようなもので、人工的な空間の中に生の木がある。西沢さんの作品は、構造体として斜行する木材が使われています。そして私のは、樹木をイメージした、幾何学的なパターンの架構がある。そういう木へのアプローチの違いが、各々のプロジェクトを象徴するような気がしました。
伊東 藤森さんにお聞きしたいのですが、先ほど、三間四方の「九間」を今回つくるに際し、木造であのスパンは辛いから、畳の間に柱を1本立てることにしたと話されてましたね。普通の人ならば、鉄骨を入れてでもなんとか柱なしに済ませたいと思うじゃないですか。柱を立てたのは、持たないから柱があっても仕方ないということなのか、やっぱりあそこに柱があったほうがいいのか、どちらですか。
藤森 あったほうがいいと思った。柱は、あればあるほどいい。それに、人間の身体の最大の関心というのは、直立をどうやって保つかということなんですよ。人は、柱を立てた時にそれを感じたに違いないんです。それを考えると、柱を立てたくなったわけです。
伊東 西沢さんの提案は、内部に柱がありませんよね。
西沢 それほど大きな建物ではないし、柱をなくして住み手が自由に動けるようにしています。それで日差しの明るさによって、生活リズムが自ずとできあがるようにしたいんです。
伊東 今日の西沢さんの講演では、影が何時にテーブルの上に落ちるとか、キッチンに落ちるとか話してましたよね。よくもまあそういうことを考えると思いました。
藤本 僕も、ああいう発想はなかったですね。人間の活動に対して、建築が勝手に何かを仕掛けてくるというのは、僕もいいなと思うんですよ。人間がそれに反応しなければいけないって言うのでしょうか。そういうつくりというのは、ある意味で機能主義とは反対ですよね。朝、突然日が差してくるとか、人間に都合がいいというだけでできていない。
藤森 太陽の光を直接床まで通したいという気持ちが強いんですね。
西沢 つまり、窓から横向きに光を入れるのでは駄目で、やはり光は上から降り注いで欲しいと思ってるんですね。そうなれば、生活のリズムが狂うというような現代病は、なくなると思うんです。光は人間の身体にとって、とても重要だと思います。
伊東 藤本さんはキューブを使っていますよね。あのキューブは何なんだろう。あの存在を認めると、そこから先の関係は非常に明快に分かるんです。今回のキューブは2m角で、本当に限界的なスケールですよね。
藤本 あれを小さくしたのは結構意識したんです。上に上がるのも下に下りるのも、建築の1フロアを上がるほどの高さはないんです。そういう寸法でつくっていきました。
キューブは小さくて、しかも一面は外に開いている。部分的にはガラスがないものもある。そういうものが有機的に関係していると、箱だけれども、実態としては何か外と中が溶け合ったような場になる。中に入った時には、それが箱であるということが、一瞬よく分からなくなるようなものになっていると思います。
伊東 今回この3人の建築家の方に登場してもらうに当たって、僕はそれぞれに全く違う考え方をするけれども、共通に動物的な感覚でモノを考えている点に興味がありました。ドアの高さなどでも、僕らだと断面図を描きながら、この高さはもうちょっと低いほうがいいと決めていきます。でも藤森さんは、全然そうじゃない。もう根っから動物的というか、そういう決め方をしていますよね。
藤森 僕は設計事務所に一度も勤めたことがないんですよ。だから自分が好む身体性、つまり、自分がいいなと感じる空間の大きさなどの感覚が、抑圧されていないんですよ。
西沢 研究者としての藤森さんは、最も抑圧的な時期の建築を、つまり明治期のハードな様式建築を専門にされていましたよね。それなのに、実作では違う方向に行かれたのは、どうしてでしょう。
藤森 僕は45歳で初めて設計をすることにしたのだけれど、歴史を専門にしている人が歴史的なものをやると、やっぱりなと思われる。それともう一つは、同世代の建築家の作品には、絶対似てはいけないと考えた。伊東さんたちの作風に少しでも似たものをつくれば、それは単なる後追いのデザインになってしまうんですよ。最初の設計の時は、そういうことが結構苦しかったんです。
西沢 神長官守矢史料館の時ですね。
藤森 そう。それでそういうものを全部捨てて、あれができたんですよ。そこから後は楽でした。
西沢 そうでしたか。
藤森 ちなみに、藤本さんも西沢さんも、たくさん模型をつくるそうですね。それはどうしてなんですか。
藤本 僕の場合は、やっているうちに、どうも得体の知れないものがまず出てくると。それを進めていくには、もう模型にして見てみるしかない。模型にして覗いてみて、いいかなー悪いかなーと、そういう作業しかやりようがなくなってくるんです。ひたすらつくって、だんだん身体的に自分で理解できるようになるのを待つという作業をしています。
藤森 西沢さんは、なぜそんなに模型をつくるんですか。
西沢 言葉にごまかさないためでしょうね。基本的に何かアイデアを思いつくと、そこでジャッジしないで、必ず模型と図面にして検討するようにしているんですが、言葉に頼りすぎるとごまかされてしまうけど、模型と図面があればごまかされにくくなります。だから設計中は、大量の模型と図面を延々と見比べています。
藤森 そういう模型は、所員の人がつくるわけですよね。そうすると口で何か伝える必要がありますよね。こういう模型をつくるんだよって。
西沢 口と、あとはスケッチですね。
藤本 僕は最初、何も言わないです。
藤森 えっ?
藤本 何かつくれって言うだけです。
藤森 こういうプロジェクトがあるとだけ伝えてやらせるんですか。
藤本 そうすると支離滅裂なものが出てきます。そこから自分なりの解釈をしていく。そこに何か発見していきたいと考えているんです。発見しきれない模型がいちばん気になるので、最後まで残ります。だから最後まで何かを発見しようとしているプロセスが、設計のプロセスになっているような気がしますね。
藤森 それで思い出したのだけれど、丹下さんの東京カテドラルがありますよね。あれもまずスタッフにやらせたんですよ。その時に十字架のプランで、そのままずっと上まで伸びたとんでもない案が出てきた。それともう一個、ヒラヒラとテントをかけてその下に人が集まればいいっていう案があって、あとはなんとなく普通だなという案が出てきたらしい。それでその2つだけ残して合体させて、あれになったそうです。
伊東 なるほど。
藤森 今の話はそういうのに近いですよね。模型というのも面白いなー。
伊東 模型一つでも、人によって求めていることがかなり違いますね。
このプロジェクトは、順調にいけば、今年の秋の終わりぐらいに4つとも竣工します。その折には、実物を見ていただいたり、またこういう機会をつくってお話ができたらと思います。今日は長時間ありがとうございました。